



日本一の梅産地である和歌山県日高郡みなべ町では、完熟すると樹上で黄色くなり落下するという特徴を持つ「南高梅」を栽培しています。
5月中旬ごろから園地となる急斜面にブルーのネットを敷き、完熟梅が落下してくるのを待ち受けます。斜面を覆うほど拡げたネットは、ふわっとした下草に支えられて果実の落下による傷を抑える、落下した梅を集めるなどの、重要な役割を担っています。
6月中旬から7月上旬にかけて、みなべ町では完熟落下梅収穫のピークを迎えます。町全体が「黄色い完熟梅」の豊かな香りに包まれ、一年で一番忙しい時期を迎えます。


みなべ町で梅に関わる農家は約1,300軒であり、その半数が梅の専業農家。加工業など梅に関わる産業も多く、梅産業での収入は町の税収と密に連動しています。このため、梅に関わる収入の維持・拡大は、みなべ町において最も重要な課題です。
和歌山県における梅の用途別実績
和歌山県全体における梅の収穫量のうち、約7割が「黄色い完熟梅」です。一般的によく知られている「青梅」は果肉がしっかりしているため生果での流通に向いており、収穫量も限られていることから高値で取引されています。一方で、「黄色い完熟梅」は生産量が多いにもかかわらず、果実が柔らかくつぶれやすい性質から生果のまま和歌山県外へ移送することが難しく、大部分が県内で梅干しに加工されてから全国へ流通しています。
2000年頃には、国産の梅干しが安価な中国産の梅干しに押されており、みなべ町では「黄色い完熟梅」の価値を高めることができる新たな使い道を模索していたのです。


メルシャンが梅酒をつくり始めたのは1960年代のことです。関東産の「青梅」を使った伝統的な手法で梅酒を生産していました。当時は梅酒製造に関する技術や知識が乏しく、いわば「梅をただ漬けただけ」の製法といえる状態でした。そうした状況を変えようと2005年、本格的に国産梅の研究に取り組むことになったのです。
メルシャンの梅酒製造に大きな転機が訪れたのは2006年です。日本一の梅産地である和歌山県を訪れ、和歌山県果樹試験場「うめ研究所」と出会い、みなべ町の梅農家さんをご紹介いただきました。ちょうど収穫期を迎えていた畑を訪れると、完熟し黄色に輝く梅が実っており、あたりは桃のような甘い香りに包まれていました。ひと言で表現すれば、まさに「桃源郷」といえる世界が広がっていました。
これまで抱いていた「梅=青梅」というイメージが「黄色い完熟梅」で覆された瞬間です。
メルシャンの担当者はみなべ町の「黄色い完熟梅」の素晴らしさに感動し、お客様へこの豊かな香りと味わいを伝えたいと思い、みなべ町の生産農家、JA紀州と共同で「黄色い完熟梅」を生果のまま取引する新しいバリューチェーンの構築に取り掛かりました。メルシャン独自の品質規格を定め、輸送・凍結保管など三者で工夫と改善を重ねながら、完熟した黄色い梅を梅酒の原料として継続的に取引することに成功しました。


私たちが「黄色い完熟梅」を原料とした梅酒の開発に取り組み始めた当時は、業界的にも梅酒には「青梅」を使用するのが当たり前とされており、「黄色い完熟梅」を使用した例はほぼありませんでした。
そこで私たちは、メルシャンの強みであるワインにおける知見を活用することで、梅の果実としての価値を高めることができないかと考え、シャトー・メルシャンのワイン醸造における技術を応用したのです。
従来の梅酒の製造方法を一つ一つ見直し、南高梅が完熟した時の味と香りを最大限引き出すために生み出したのが、凍結させた完熟梅を漬け込む「凍結完熟浸漬製法(※)」という独自の技術です。
そして生まれたのが、完熟した梅の香りを楽しんでいただける『まっこい梅酒』です。桃やトロピカルフルーツを思わせる甘い香りと完熟を迎えた梅ならではのジューシーさを存分に活かしたこれまでの梅酒にはない味わいは、梅酒にパラダイムシフトをもたらしました。
さらに、プレミアムな原料のみで製造する『完熟あらごし梅酒 梅まっこい』が誕生しました。完熟した梅の中でも特に香り高い梅原料のみを使用し、浸漬した梅の実もピューレとして加え、完熟した味と香りをまるごと味わっていただける梅酒です。


私たちの取り組みに共感し、試験研究に際して梅原料を提供いただいたみなべ町の皆さんに当時の想いを伺いました。
「一緒に作り上げた流通方法は「黄色い完熟梅」を果実のまま出荷できる。手もぎや加工の作業に比べて「手間」がかからないことが大きなメリットと感じている」
「「黄色い完熟梅」の規格は、年々変わる作柄や栽培状況に鑑みて互いに意見を出し合い改善を続け、品質も効率も向上させることができている」
「山間部地域での人口減少を食い止めるために、考え方や志、社会的な役割の意識を共にできる仲間を増やしていくことが大切だと思う」
「いい品物を生産しても価格が伸びなくて苦労してきた経験があるからこそ、「黄色い完熟梅」の価値化の取り組みは、自分たちにできること、自分たちが必要としている、されていることがわかる取り組みと感じている」


「黄色い完熟梅」の新たな価値を創出したことで、地元の生産農家やうめ研究所の皆さんと連携して、みなべ町が抱えていた完熟梅の消費量拡大という課題解決に貢献するとともに、『梅まっこい』『まっこい梅酒』という素晴らしい商品をお客様に届けることができるようになりました。
次の目標は、より多くのお客様に、商品を手に取っていただき、「黄色い完熟南高梅の美味しさ」と価値や魅力をお伝えすることです。そして、地域と当社、双方の収益面を向上させることで、長期的に事業や農業の持続性を高めていきたいです。
メルシャンでは、現在も新たな品種での梅酒づくりに取り組んでいます。今後も地域とともに、付加価値の高い商品を通して、「黄色い完熟南高梅」の魅力を一人でも多くの皆さまにお届けしたいと考えます。

