梅の実と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは固くて青い青梅ではないでしょうか。梅酒を漬けるのも、青梅を使うのが一般的です。その常識を覆し、黄色く熟した完熟梅の香りとおいしさを引き出したのがメルシャンの「梅まっこい」シリーズです。“香りのメルシャン”ならではのフレッシュでフルーティーな香味が特長のこの梅酒、開発の背景には十数年にわたる産地の人々との協働がありました。地域に溶け込み、信頼を得ることで、これまでにない梅酒を世に出すことができたのです。同時に、過疎化や後継者問題などの地域の課題解決にも貢献し、地域と企業が共に栄えるWin-Winの関係を築きました。CSV(社会と共有できる価値の創造)の好事例としても注目される“畑に通う研究者”、ワイン技術研究所の山崎哲弘主任研究員の取り組みを紹介します。
当時、梅酒の原料は青梅が主流であり、完熟梅を扱っている梅酒メーカーはあまりありませんでした。黄色く熟した完熟梅の存在は一般にはほとんど知られておらず、梅干しに使うほかは用途もない。一般家庭では、買ってきた青梅が熟して黄色くなると、傷んで使えなくなったと誤解して、捨てられてしまうことすらありました。
「そうした“一般常識”を覆したいと思いました。完熟梅は傷みやすいので流通に向きません。そのため、産地の人しか知らない幻の存在だったのです。私たちが研究で大切にしているのは、他のメーカーと同じことをするのではなく、自分の得意分野で勝負して独自性を高めていくことです。“香りのメルシャン”として、完熟梅のフルーティーな香りの特徴を見極め、梅酒に生かしたい。そうすることで、完熟梅の価値を知らしめ、価値を高めることができると考えました。産地にとっても、梅干し以外に完熟梅の用途が広がることは、消費拡大、生産地の活性化につながります。ぜひ成功させたいと夢が広がりました」
とはいえ、社内には南高梅に関する科学的な蓄積がありません。そこで2006年4月、キリン(メルシャン)と和歌山県果樹試験場うめ研究所、生産農家(JA紀州)がタッグを組んだ共同研究がスタートしたのです。香りに関する分析調査をキリンが行い、梅の機能性成分分析や栽培環境の調査をうめ研究所が行い、梅のサンプルや栽培情報を農家が提供するというように、それぞれが専門分野を担当する形でした。
いまも折にふれて産地を訪れ、調査や議論を重ねます。JA紀州では、みなべ町山間部の生産農家による「完熟梅部会」も発足。キリンとの協働が根付いています。140品種を栽培するうめ研究所での調査(左)、完熟梅部会(中)、栽培条件の話し合い(右)など、常に腹を割って話す姿勢が信頼につながっています。