[ここから本文です。]

ビールの歴史

ビール史上最古をさがせ!Vol.2
崖からビール!?
世界最古の醸造所伝説とは!!

はじめの頭脳が、いよいよ黄金色に澄み切ってきた。

「自由にビールを販売できたヴァイエンシュテファン修道院は、大いに富と名声を得たに違いない。しかし同時に世俗化も進み、修道院は徐々に衰退していった。そして1789年、フランス革命が勃発。教会財産は没収され国有化された……」

はじめの鋭い考察に、ワタルが文献を追いながらサポートしていく。

「財政に苦しむバイエルン政府も、19世紀に入って教会財産の国有化をはかり、200を超える修道院はすべて消滅。しかし醸造所や水車といった附属施設は競売または国家に移管され、ヴァイエンシュテファン修道院の醸造所もまた、国立の醸造所として存続することとなった・・・」

「そして現在にいたる!」
はじめの力強い断言にゼミ室が静まり返る。

と突然、けたたましいスマホの着信音とともに、マコのけたたましい叫び声が響いた。
「ドイツの和子先輩から動画メールが届いたわ!」

「なんだって!」

全員がスマホに駆け寄り、緊張気味に動画を再生するマコ。そこには菊池和子、そしてなんと吉原教授が、ヴァイエンシュテファンのビアホールで、美味しそうにビールを飲んでいるムービーが、三脚で撮ったと思しき固定画面で、延々と長回しされているのであった。

「諸君、もうおわかりかな」
ゆったりと吉原教授が、カメラ目線で語り始めた。
「現存する世界最古のビール醸造所は、1040年に起源を持つ、ここヴァイエンシュテファン醸造所なのである。当時は修道院醸造所だったヴァイエンシュテファンは、創立以来、60代の院長によって守られ、19世紀初頭に州立のビール工場となった。そして1868年に創立したミュンヘン工科大学のキャンパスの一部となり、醸造学部が技術提携をおこないながら、今日にいたっているというわけだ。2010年からは、欧州で販売されている『KIRIN ICHIBAN』(キリン一番搾り)も、このヴァイエンシュテファン醸造所で委託製造されておるのだよ」

 

語り終わると、ムービーの吉原教授は、巨大ジョッキを天に掲げ、「Prosit(乾杯!)」という盛大な唱和とともに、再び菊池和子と美味しそうに名物のヴァイツェン・ビール(小麦ビール)を飲み始めるのであった。

「くやしーっ!」
マコが地団駄(じだんだ)を踏んだ。

そして五郎が力なくつぶやき、さゆりが素朴な驚きをみせた。
「……このふたり、ドイツ語で話してる」
「菊池さん、ドイツ語だとすごいしゃべってる……」

最後にはじめが、みんなの気持ちを代弁した。
「ドイツ語がわからない!」

言いようのない敗北感が彼らを包み、スマホのムービーから流れる陽気なドイツ語だけが、ゼミ室に響きわたっていた。

登場人物相関図
登場人物相関図