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ビールの歴史

ビール史上最古をさがせ!Vol.2
崖からビール!?
世界最古の醸造所伝説とは!!

神出鬼没の吉原教授率いる「ビール史学ゼミ」では、古今東西、ビールに関する最古の事案を調査している。そして今回、麦野はじめら7人のゼミ生に課せられたのは「現存する世界最古の醸造所」を探すこと。手がかりは「崖からビール」ということなのだが、はたして……。

登場人物相関図
登場人物相関図

崖からビール——そう聞いて怪奇な気持ちにとらわれない者はいないだろう。

事実、ゼミの出席率30%の浅野純一は、「非科学的だね。吉原教授の妄想さ」と完全スルー。いっぽう出席率100%ながら発言率2%の菊池和子は、「調査のため、ドイツへ行ってきます」とだけメールを打って単独渡欧。図書館では、研究熱心な坂屋ワタルが、黙々と文献を読みあさっている。

そんななか、ひとり麦野はじめは、「わからない、わからない」とゼミ室をおろおろするばかり。
「崖からビール……なにかの伝説か?」

「それよ!」
現れたのは、はじめの憧れの先輩、如月(きさらぎ)さゆりである。
「これは伝説。つまり信仰にもとづいた奇跡のひとつなのよ」

はじめの頭脳がシュワシュワと泡だってきた。
「信仰ということはキリスト教。キリスト教でビールといえば……」

「修道院さ!」
現れたのは、頼れるゼミ長、平泉五郎である。
「中世ヨーロッパでは、ビールが人々の貴重な栄養源となっていた。なかでも修道院では、当時有数の知識層であった修道士たちが研究を重ねて、高品質なビールを醸造していたんだ。はじめ、お手柄だな」

はじめは照れた。でも内心、こんなことを考えてもいた。
「さゆり先輩と平泉先輩は、ふたりで一緒にゼミ室に来たのか。なんだ、俺のこのモヤモヤした気持ちは……」

「ドイツの和子先輩から写メが届いたわ! 」
騒々しく走りこんできたのは、同級生の三極院(さんごくいん)マコ。元気ハツラツとしたムードメーカーだが、元気すぎて話がややこしくなることもしばしば。

——バイエルン州ミュンヘン郊外、ヴァイエンシュテファンの丘にて。

例によって、そっけない和子のメールだが、自撮り棒で撮ったと思しき彼女のメガネはキラキラと乱反射し、調査の成果を雄弁に物語っているようである。

「ミュンヘンといえば、ビールの本場ね」とさゆり。
「そしてヴァイエンシュテファンといえば、ミュンヘン工科大学を構える丘陵(きゅうりょう)地だ」と五郎。
「ということは崖もあるわね」
「それにミュン工大の醸造学科は、ビールの研究機関として国家的な権威!」
「クサいわ。でも大学と修道院、それと崖が、どういう関係にあるのかしら」
「うーん」
ふたりが行き詰まったその時。

「大学の前身が、修道院だった……」
はじめがもらした独り言を、先輩ふたりは聞き逃さなかった。

「それだーっ!」

たたみかけるように、今度はワタルが、文献を音読しながら、図書館から戻ってきた。
「1040年、ヴァイエンシュテファン修道院が、領主よりビール醸造権を獲得。決め手となったのは、この地に伝わる崖から湧き出たビールの奇跡であった……」

〜その昔、ヴァイエンシュテファン修道院に、ノトカーという信心深い修道士がおったそうな。ある夏の暑い日のこと、ノトカーは山道で足をすべらせ、崖から転落してしもうた。助けを呼んでも返事はなく、飢えと疲労と苦痛が限界に達した3日目の朝。力をふりしぼって朝の祈りを口にしたノトカーのそばの岩間から、なんと冷たくホップの効いた黄金色のビールがこんこんと湧き出るではないか。ハレルヤ! こうして瀕死のノトカーは徐々に体力を回復し、やがて通りすがりの牧童に救出されたとさ〜

「つまり、ヴァイエンシュテファン修道院は、霊験あらたかな崖のビール伝説によって、ビールの醸造権を獲得できたわけか!」