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幸民のビール醸造法、つまり『化学新書』に記されてある醸造法は、現在のビール醸造技術と比べて大きな違いはありません。
◎アルコールとは、酵母が糖を中心としたエキス分を分解するとき、 炭酸ガスなどとともに生成されるもの。
◎ビールの場合、まず原料の麦に含まれるでんぷんが、麦芽の酵素によって糖に分解されます(糖化)。
◎ここに酵母を添加すると、酵母の生命活動によってアルコールができるのですが、幸民は、この糖化について非常によく理解していたようです。
◎また『化学新書』には、原料の麦を麦芽にする過程(製麦)についてや、麦汁を得るときに酵素が最もよく働く温度についての正確な記述もあります。 |
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[原文]
細磨セル麦芽一銖ニ、冷水三銖ト沸湯四銖ヲ和スル者ヲ注キ、一二時温處ニ置キ、摂氏六十五度ヨリ七十度ノ温ヲ得セシムレハ、其液甘味ヲ生シ、垤屈私多里捏(デキシタリネ)ト糖ヲ含ミ、且又麦芽ヨリ分カレタル植膠分、コゝニ溶觧ス。此液ヲ (モスト)ト名ツク。布片ヲ以テコレヲ濾シ、一二時コレヲ煮テ、清澄透明ナルニ至リ、放冷シテ三十度トナルニ至リ、 酷(ギスト)一茶匙ヲ加フレハ、速ニ泡醸シ、一二日後、復清澄ス。此清澄ナル泡醸液ハ、即麦酒ナリ。(中略)○此液煮ユル際ニ、忽布(中略)少許ヲ加フレハ、香竄苦味分律彪里涅(リュピュリネ)溶解シ、麦酒ノ気ヲ烈クシ、味ヲ美ニスルノミナラス、久キヲ経テ、損敗スル無カラシム。 |
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『化学新書』(日本学士院 蔵)
ビールの醸造に関するページ |
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[訳文]
粉砕した麦芽1に対して、冷水3と沸騰水4をまぜたものを加えて、1〜2時間温かい所に置き、摂氏65〜70度の温度に保つと、その液体が甘味を帯び、デキストリン(※)と糖を含むようになり、また、麦芽から出たたんぱく質が溶け出した液体になる。この液体をマッシュと呼ぶ。布でマッシュをろ過し、1〜2時間煮て、清澄になった後、摂氏30度まで冷ましてから、酵母を茶さじ1杯加えると、速やかに発酵し、1〜2日後にはまた清澄になる。この清澄な液体がビールである。(中略)この液体を煮る際に、ホップ(中略)を少々加えれば、苦味成分のルプリンが溶け出し、ビールの気がはげしくなり、美味になるだけではなく、腐敗せずに長持ちする。
※デキストリン:デンプンの一種を分解して得られる中間生成物の総称 |
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| 幸民が著した『化学新書』の「麦酒」(ビール)の項目ではドイツ風のビールに代表される下面発酵(『化学新書』の記述では5〜10℃で発酵)のビール醸造法と、イギリス風のエールに代表される上面発酵(『化学新書』の記述では12〜20℃で発酵)のビール醸造法の発酵温度の違いが記されています。おそらく幸民は常温でできる上面発酵で醸造を行ったと思われます。しかし、上面発酵と下面発酵で使用する酵母の種類が異なることには触れられていません。当時は西洋でも酵母の作用が完全には解明されておらず、幸民が使用する酵母の選定や発酵の度合いの確認ができたかどうかはわかりません。 |
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それでは、川本幸民の醸造したビールとは一体どんなものだったのでしょう。
私たちは、当時の史料に基づいて調査・研究を行い、現代の技術で復元に着手しました。 |
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