従業員の生成AI利用率は70%。DXの先にある「人間にしかできない仕事、AIと共創する未来」

デジタル技術を使って組織やビジネスを変革し、自社の競争力を高める取り組み「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。キリンでは、生成AIの進化を追い風に、DXの取り組みがさらに加速しています。

2024年から現在にかけて、情報収集や資料づくりなど“作業”の負担を減らすことで、企画や提案に時間を回せるように支援する従業員向け生成AIを導入。さらに、経営会議の議論を深め、意思決定のスピードと質を高める経営層向け生成AIも開発しました。

その結果、キリングループ内での生成AI利用率は70%に到達しています(※2025年10月時点)。

「従業員がAIと協働しながら業務を効率化し、精度や高度化を進める動きが社内にしっかり浸透してきている」と話すのは、デジタルICT戦略部 AI戦略推進チームの永沢拓也。その背景にはどんな戦略と思いがあるのか、話を聞きました。

生成AIで、キリンのDXが次のステージへ

【プロフィール】永沢拓也ながさわたくや

デジタルICT戦略部 AI推進チーム 主査
大手印刷会社にてキャリアをスタートし、新規事業創出やソリューション開発など多様な領域で経験を積む。2020年にキリンホールディングスへ入社後は、基幹システム刷新プロジェクトの推進やデジタルマーケティング領域の変革をはじめ、企業のデジタルトランスフォーメーションを多角的に牽引してきた。現在は、AI戦略およびデータ戦略をリードし、全社的なAI活用基盤の高度化と価値創出を推進。テクノロジーを起点に、事業競争力の強化と新たな成長機会の創出に取り組んでいる。

─2023年11月に公開したnote記事でも、キリンのDX推進の取り組みについて聞きました。それから約2年。社内のDXにはどんな変化があったのでしょうか?

永沢:一番の変化は、社内のDXに対する理解がぐっと深まったことですね。その要因として特に大きかったのは、生成AI技術の飛躍的な進化です。

2023年頃には「ChatGPT」が話題になりはじめていましたが、当時はまだ様子見といった雰囲気だったと思います。しかし、2024年には「生成AIの実用が当たり前になるのかもしれない」というムードが世間一般にも広がりはじめていましたよね。

その頃、どんな企業も生成AIには大きな可能性を感じていたと思います。DXで事業そのものを変えていくには、やはり技術面での大きな飛躍が必要です。生成AIは、まさにその“鍵”になりうる存在だと感じていたんです。

そういった流れを受けて、キリン社内では私たちのチームを中心に「生成AIでこんなことができるんだ」という事例を地道に積み重ねながら、社内に広げていきました。

キリン従業員の70%が生成AIを活用

─具体的に、どのような取り組みを行われたのでしょうか?

永沢:大きな取り組みでいうと、従業員が使える生成AIツールを導入しました。現在では、マイクロソフトが提供する業務支援AI「Copilot」のほか、2024年より開発に着手したキリン独自の従業員向け生成AI「Buddy AI」を導入しています。

「Buddy AI」は、“Buddy(相棒)”の名のとおり、従業員の日々の業務の“相棒”となる存在を目指しました。キリンの過去のデータベースや外部の最新情報をもとに、マーケティングや営業など各部門の業務に特化した機能を搭載しています。

例えば、「商品の方向性を固めたい」「キャンペーンのアイデアを広げたい」など、企画や発想が問われる場面でも、協力者として活用できるツールです。

一方、「Copilot」は、メールの下書き作成や資料の要約、データ分析の補助など、日常的なオフィス業務を効率化するツールとして活用されています。

永沢:「Buddy AI」は、2024年11月にマーケティング部門にのみ先行で導入し、改良や機能の追加、従業員側のリテラシー教育を経て、2025年5月に展開を拡大しました。そして今、10月時点で「Buddy AI」の平均利用率は70%ほどになっています。

─70%というと、かなり多くの方が利用していますね。

永沢:はい。日本の企業における一般的な業務AI利用率は60%程度と言われているので、他社と比べても高い水準です。従業員がAIと協働しながら業務を効率化し、精度や高度化を進める動きが、社内にしっかり浸透してきているのだと思います。

AIの高い利用率を支えるのは、“共に学ぶ”文化

─他社と比べても高い利用率を実現できた理由は、どんなところにあるのでしょうか?

永沢:一つ大きいのは、継続的な“学びの場”をつくってきたことです。「DX道場」という人材育成プログラムを長年続けていて、今ではグループの従業員のほとんどが受講しており、デジタルリテラシーも徐々に上がっています。

2025年からは「生成AI」をテーマに、新卒から役員まで全従業員を対象にした教育プログラムもスタートしました。役員も一緒に学ぶことで、社内全体に「自分も理解を深めなければ」というムードが生まれているんです。

─役員も一緒に学んでいるんですね。

永沢:そうですね。印象的だったのは、入社1年目の従業員が企画から運営まで担当し、役員に生成AIの活用方法をレクチャーしたことです。

若手にとっては、自分のスキルを活かして教える貴重な経験になりますし、ベテラン層にとっても新しい発見のある学びの機会。生成AIをきっかけに、組織の新しいあり方にもつながっていくのではないか、と考えています。

経営会議にAIが参加。 “AI役員”誕生の背景とは

─「BuddyAI」や「DX道場」によって、生成AIの存在はキリンのなかで「当たり前」になっていったんですね。

永沢:はい。現場からのボトムアップで、生成AIを軸にしたDXを進めることができたと思っています。一方で、トップダウンでもDX推進の機運を高めるため、「どうすればもっと経営層にもAI活用を広げられるか?」を考えながら進めてきたのが、経営層向け生成AIツール「AI役員 CoreMate(以下、CoreMate)」の開発です。

「CoreMate」は、キリンのグループ経営戦略会議に導入するために開発しました。多様な専門性と意見を持った12名の人格を構築し、AI人格同士が議論のポイントを整理して抽出した論点を、実際の経営戦略会議に提示するようにしたのです。

「DX道場」で役員も積極的に生成AIを学んでいた下地があり、そこに社会的なムード──「生成AIを使いこなせないと時代に取り残されてしまうかもしれない」「会社が成長戦略を描くには、生成AIをきちんと活用していく必要がある」という風潮に経営層がしっかり向き合っていたからこそ、実現できたことだと思います。

─今後、「CoreMate」の展望について何か構想はありますか?

永沢:「CoreMate」は仕組みとして、とても汎用性が高いんです。生成AIなら、作ろうと思えばさまざまなペルソナを設計できます。

例えば、上司の職務経歴や守備領域、判断基準や性格、口調などをデータ化することができれば、上司の代替人となる“AI上司”を作ることが可能です。本当の上司の予定を押さえるのが難しいときでも、頼れる存在になりうると思っています。

AIツールは「完全内製」にこだわった理由

─「CoreMate」はとても特徴的な取り組みですよね。開発にはどのくらい時間がかかったんですか?

永沢:初期バージョンは、開発開始から1か月ほどでリリースできました。とはいえ、その後も継続的に改良を重ねています。
 
─1か月…!かなり早いですね。どんな体制で進めていたんでしょう?

永沢:「CoreMate」は、すべて社内で作ったんです。いわゆる“完全内製”ですね。内製した理由は大きく二つあります。

一つは、キリンならではの業務や文化に合わせたカスタマイズを素早く行えること。もう一つは、機密性の高い情報を扱うため、外部に委託することが難しかったことですね。

─内製化って、技術を自分たちで理解していくうえでも重要そうですね。

永沢:おっしゃるとおりです。「Buddy AI」も一部を内製で進めていたのですが、その経験があったからこそテクノロジーに対する理解が深まり、「自分たちで作る」という文化が社内に根付いていきました。

内製化は単なる“技術的な選択”ではなくて、会社全体の学びや文化を育てることにもつながったと思います。

─内製化できる人材が揃っているというのも、強みですね。

永沢:そうですね。例えば、「Buddy AI」のプロダクトオーナーは、新卒で入社して2年目の従業員が担当しているんですよ。大学で6年間ICT(情報通信技術)を専門的に学んできた人財です。「誰にどう使ってもらいたいか」「どんな機能が必要か」を考え、開発や外部パートナーとの調整まで、自分でマネジメントしています。

AI推進戦略チームはキャリア採用にも力を入れていて、現在、メンバーの半数はキャリア入社です。入社理由はさまざまですが、「グループ全体の事業に影響する取り組みに挑戦できる」「スピード感のある環境に魅力を感じた」という声や、「生活者に身近な商品やサービスを通じて、社会価値の向上に貢献できる」と考えて入社した方もいます。

入社年次も国籍もさまざまなメンバーが在籍するチームですが、それぞれが自律的に「こうしていきたい」とアイデアを出して実行しています。新しい技術をどう使うか、会社をどう変えていくか、日々ディスカッションが尽きません。

いろんな視点を取り入れながら、“キリンが今後どうなっていくべきなのか”を描いて、実際に形にしていく。そんなおもしろいチームになっていると感じます。

人間にしかできない仕事、AIと共創する未来

─AIが業務を担うようになると、人間の役割はどう変わっていくのでしょうか?

永沢:ここはすごく重要なポイントなんです。

今、従業員の多くが定型業務や社内調整など、業務上必要なタスクに追われています。しかし、本来人間がやるべきこと──AIが取って代わることができない役割は、お客さまを深く理解し、市場や世の中と向き合って、お客さまが「今」求めているものを届けるだけでなく、将来的に必要になる商品やサービスを作ることです。

だからこそ、生成AIを活用して業務を効率化することが重要です。業務プロセスを見直し、AIが担える業務を増やして、人間のタスクをどんどんAIに任せていく。さらに言えば、主体的に動く「AI従業員」を生み出していく必要があると考えています。

─「AI従業員」という表現、興味深いですね。

永沢:今のAIは、まだ“指示を受けて動く存在”です。人がチャットで指示を出して、AIがその答えを返す。これはまだ、人間の世界に紐づいた使い方です。

でも、私たちが目指しているのはその先。人間が指示を出さずとも、AIが自ら情報を集めて、計画して、判断し、動けるようにする。これが次のチャレンジです。

─「自律的なAI」を実現することで、AIに任せるべきではない領域に人間がもっと向き合う時間を創出するということですね。

永沢:そうです。特に今、力を入れている「ヘルスサイエンス」の領域では、人の健康や幸せをどう支えるかを考え抜く必要があります。その根っこにある「人の気持ち」や「思いやり」は、AIにはまだ理解できません。

もちろん、AIのサポートを受けながら構想を練ることはできます。でも、正解がないことに挑む──それが人間の強さだと思っています。AIは過去のデータをもとに答えを出しますが、未来を描けるのはあくまで人間です。

永沢:失敗を恐れずに、新しい可能性を探っていく。そうした挑戦を繰り返しながら世の中を変えていけることが、人間の最大の価値だと考えています。

生成AIによって業務が効率化されることで、従業員一人ひとりがより創造的で、人間らしい仕事に集中できるようになる。そんな未来を、私たちは目指しています。

文:長谷川賢人新しいウインドウで開きます
写真:上野裕二新しいウインドウで開きます
編集:RIDE inc.新しいウインドウで開きます

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