“それって本当に未来のため?” キリンの社会への取り組みを中学生と一緒に考えた話
(公開日2025年10月23日)
キリンが未来のために取り組んでいることって、未来を担う中学生の目にはどう映るのだろうー
気候変動や資源の問題など、地球が抱える課題は、私たちの暮らしにも少しずつ影響を与えています。そうした中で、企業は社会の一員として、社会や環境のためにできることを見つけ、取り組むようになりました。
キリンでは「CSV経営(※)」を掲げ、事業を通じて社会や環境にプラスの価値を生み出すことに取り組んでいます。
※ステークホルダーと共に、事業活動を通じて社会課題を解決し、経済的価値と社会的価値が両立する経営手法のこと。
こうした企業の活動は、未来を担う中学生たちにどう映るのでしょうか?そこで、中学校の生徒たちをキリンへお招きし、キリンのCSV活動を紹介したのちに、従業員と一緒に環境や社会の課題について意見を交わすワークショップを開催しました。
この記事では、生徒たちが感じたこと、そしてキリンの従業員がその声を聞いて考えたこと、その対話の様子をレポートします。
今回、このイベントを企画したのは、キリンでサステナビリティ戦略を担当している吉川です。
彼は中学生との意見交換会を企画した理由についてこう語ります。
「私の仕事は、キリンの事業を通じて社会課題の解決に貢献できることは何かを考えることです。この仕事をしていると、ふと『未来を担う若い世代にはどう見えるのだろうか?』と考えることがあります。」
【プロフィール】吉川 創祐(よしかわ そうすけ)
キリンホールディングスのCSV戦略部 環境チームリーダー。専門領域はサステナビリティ。ビジネスを通じて将来の社会や環境を少しでも良くすることがキャリアの目標。興味のあることはB Corp movement(経済を株主至上主義のゲームから多くのステークホルダーにとってより良いものへと変えよう!という意思を持った企業によるムーブメント)。
この企画が生まれたきっかけは、2024年に開催された「環境美化優良校等表彰」の表彰式でした。これは地域社会と連携しながら環境美化に取り組む小中学校を対象として表彰するもので、キリンは審査員を務めています。吉川はキリンの一員として、その表彰式に参加していました。
表彰式で吉川が目にしたのは、若い世代が社会のために熱意をもって行動している姿でした。そのとき、吉川の中に2つの問いが浮かんだといいます。
「彼女たちに、キリンの取り組みはどう映るのだろう?」
「彼らの姿を、職場の仲間が見たら何を感じるだろう?」
こうした想いから、吉川は表彰式に参加していた中学校の先生に相談し、今回のイベントの開催へとつながりました。
今回キリンへ訪問してくださったのは福井県にある福井市立美山中学校の皆さん。美山中学校は、2024年の「環境美化教育優良校等表彰」で、農林水産大臣賞を受賞した学校です。
まずはじめに、美山中学校の皆さんから日頃の活動について発表していただきました。
美山中学校では、国道沿いで除草や植栽を行う「フラワーロード奉仕活動」など、高齢化が加速する地域の美化活動に生徒が自主的に取り組んでいます。
「フラワーロード奉仕活動」の様子
特に力をいれているのが「美山クリーン大作戦」です。地域でのごみ拾いを企画した際、家電などの粗大ごみが多く捨てられていたことに衝撃を受けた生徒たちは、注意喚起のポスターを作成・配布。小学校と協働で清掃活動を展開するなど、地域からも共感され、関係者を増やしている様子です。
発表を聞くキリンのメンバー
続いて、キリンのメンバーから、事業を通じた社会課題の解決に向けた取り組みを紹介しました。
「皆さんがスーパーで買う製品が手に届くまでに、どのような社会的課題が関係してきたか考えてみてください。きっと大人になるころには、もっと身近な課題になっているかもしれません。」
キリンでサステナビリティ戦略を担当するメンバーは、商品がお客さまの手に届くまでにどのような社会課題と関わり、キリンはどう解決しようとしているのかについて、中学生の皆さんにお話ししました。
『キリン 午後の紅茶』を事例に様々な取り組みを紹介
その後、キリンが取り組んでいるテーマごとにグループに分かれ、キリンの社会課題へのアプローチについて議論を交わしました。議論がはじまると、生徒たちは自分たちの生活を思い浮かべながら、キリンのメンバーと意見を交換していました。
水資源をテーマに議論していたグループでは、「地球に生きる植物や生きものも水を使うから、当然私たち人間が使っていい水は限られるんですよね。私たち人間も水を大切に使わないと」という意見が出ました。
この意見を聞いた水資源を担当するキリンの並木は、生徒たちが自分事として将来のことを考える姿を見て、次の世代のため、今ある課題により一層真摯に向き合わなければならないと感じた様子。
「私たちが使える水はとても少ないだけではなく、自然にも水が必要という視点を違和感なく受け止めてくれました。人と自然が平等に資源を分かち合うような認識を、すでに持っていることに感銘を受けました」
【プロフィール】並木 崇(なみき たかし)
大学卒業後、人と自然の共生を目指してランドスケープ設計事務所で植物園の計画・設計や自然環境の管理計画立案などに従事。2016年から自然保護NGOに入局し、洪水や渇水、汚染といった水リスクに直面する日本のビジネスと現場の生物多様性保全を両立するプロジェクトを構想から実務まで担当。現在はキリンホールディングス CSV戦略部において、水資源などを担当。
気候変動について議論したグループでは、「カーボンフットプリント(※)を減らすには何ができるのか?」という、一見難しそうなテーマを、「地元の鉄道って何で動いているの?車とどっちが地球にやさしい?」と身近な問いに置き換えていました。
※商品・サービスが、原料調達から使用、廃棄・リサイクルのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの排出量のこと。
キリンで気候変動を担当する野坂は、「大人たちは難解な専門用語をそのまま受け止めようとしますが、生徒たちは自分たちの足元から考える柔軟な発想を持っていました。これは私たち大人が忘れかけていた視点かもしれません」と話します。
その一方で、「生徒たちが環境に負荷の少ない行動を選ぼうと思った時に、選べるだけの選択肢を我々大人は用意できているのかと、ハッとしました」と驚いた様子。野坂は、次世代を担う中学生たちが持つ課題意識の高さや解決に向けた想いに、企業としてどう応えるべきか今後も考えていきたいと語ります。
【プロフィール】野坂 有紀江(のさか ゆきえ)
在学中に微生物の代謝経路を利用したCCU(Carbon Capture Utilization)の研究に従事したことをきっかけに温暖化政策そのものへの課題を認識。その後シンクタンクや環境省で環境分野での国際連携業務や自治体・民間企業の脱炭素化支援業務に従事。現在はキリンホールディングス CSV戦略部において、気候変動の戦略策定を担当。
ネイチャーポジティブ(※)について意見を交わしたグループは、生物多様性を実現した社会を示した図を見みながら、私たちの社会のなかにどのようにネイチャーポジティブが関係しているかをみんなで考えていました。
※自然生態系の損失を食い止め、回復させること。
「中学校の周辺のおいしいお米がとれる田んぼには、トンボとかカエルとかたくさんいるよね。それに虫を捕食するクモもたくさんいる」と、自分たちの暮らしのまわりにある生物の多様性について再認識しながら考えていました。
このグループと対話したキリンの美鳥は、「企業としてネイチャーポジティブを推進していくにあたり、次世代の方とともに学ぶ場を設けること、そして彼らの想いに耳を傾けることは、とても重要なことだと感じた」と述べます。
【プロフィール】美鳥 佳介(みどり けいすけ)
学生時代にNPOを設立し、フェアトレードの普及に従事。大阪府での教員経験を経て、公益財団法人へ転職。全国初となる公設民営中高一貫校の設立・運営、責任者としてSDGsに関わる取組を推進。その後、環境省では国内外のサステナビリティ人材育成事業、国際会合や国連機関との協業に関わり、現在はキリンホールディングス株式会社 CSV戦略部において、環境に関連する戦略の策定や生物資源、次世代プログラムなどを担当している。
意見交換会では、さまざまな意見が飛び交い、キリンのメンバーにも多くの学びがありました。イベントを企画した吉川は、あらためて企画の動機をこう振り返ります。
「環境に関する重要なステークホルダーは次世代の方々です。私たちの企業活動が及ぼす影響が顕在化するのは、まさにこの生徒たちが大人になる頃でしょう。だからこそ、この世代にとってキリンの取り組みがどう映るのかを知ることは、貴重な機会になると思いました。何より、私が受けた感動をチームの仲間にも経験してほしいという想いから、この企画を立ち上げました。」
吉川は続けて、「生徒たちとの対話を通じて、メンバーが共通して感じたのは、グローバルな規模で事業を展開しているからといって、身近なことをおろそかにしていい理由にはならないということ」と気付いたようです。
中学生たちは、お金や時間に制約がある中でも、課題解決に向けて工夫を凝らした取り組みをしています。その姿から、今回の対話に参加したキリンのメンバーは、企業としても足元からしっかりと社会課題と向き合っていく大切さを改めて見直していました。
こうした対話を通じて、私たち編集部も強く感じたことがあります。それは、「環境問題」や「持続可能な社会」といった言葉が、決して遠い世界の話ではないということです。美山中学校の生徒たちは、「自分たちの身近なことから行動を起こす」という、シンプルで力強い姿勢を見せてくれました。
また、今回の対話は企業に対して「社会とのつながりをしっかりと見つめ、もっと多くの選択肢を用意する必要がある」というメッセージを投げかけたようにも思います。企業が一方的に社会貢献をするのではなく、次世代とともに学び、成長していくことの重要性を、私たち自身も改めて認識する機会となりました。
未来は、遠いどこかにあるのではなく、私たち一人ひとりの熱意と行動が積み重なって、今この瞬間につくられていくもの。そんな活気に満ちた未来を、企業の現場からも育んでいけるよう、私たちも歩みを進めていきたいと思います。
文・イラスト・編集:キリン編集部