ビールに華やかな香りとさわやかな苦味をもたらしてくれるホップ。ビールに使うのは、ホップというつる性植物の実でも葉でもなく毬花(まりばな)だけです。球形の手まりのような形の花なので毬花と呼ばれます。また、ホップは、雄株と雌株に分かれており、ビールに使うのは雌株の毬花だけです。
ホップの収穫時期は年に一回。長く伸びたつると濃緑の葉の合間から、実(み)と見まがうばかりにたわわに咲いて最高の姿を見せてくれる毬花。その自然の恵みをできるだけそのままにビールに使うことができたら――、そんな夢をキリンビールは追求したいと思いました。
ホップ収穫初日の朝、岩手県遠野市は一面の朝もやの中に包まれていました。このもやは昼前にはすっきりと晴れ、目にしみるような初秋の空が広がります。冷涼で湿潤、そして日当たりの良い遠野の気候と地形が、ホップ栽培にはとても適しているそうです。5メートルほどもあるホップ棚には、毬花が朝つゆに濡れて可憐に咲いていました。
毬花を一つ摘んで真ん中で割ってみると、芯の周りにレモン色のルプリン粒がしっかりと詰まっていました。このルプリン粒こそが「ビールの魂」、精油とさわやかな苦味のもとです。個人の感想ではありますが、新鮮なホップの豊かな香りの中に、とてもさわやかなフローラルな香りが感じられました。
ホップ棚の高さは5m以上。
リフトに乗ってつるごと鎌で丁寧に刈り取ります。
トラックに満載されたホップは、ところどころで小さな房の落し物をしながら、近くの大型収穫センターに運び込まれます。ヘンゼルとグレーテルの物語に出てくる「パンくず」のように、ちょっとした道案内にもなり、付近のみなさんも「今年もホップの収穫がはじまったんだな」ということがわかるそうです。
収穫センターでは、専用の機械でつるから毬花を摘みとります。残った葉や傷んだ毬花は、丁寧に人の手で選別されコンベアから取り除かれます。次々と到着するホップ満載のトラック、コンベアに広がる毬花のグリーンカーペット、ホップの香りが一杯に立ち込めた収穫センターは大忙しです。
収穫センターでは、専用の機械でつるから毬花を摘みとります。残った葉や傷んだ毬花は、丁寧に人の手で選別されコンベアから取り除かれます。次々と到着するホップ満載のトラック、コンベアに広がる毬花のグリーンカーペット、ホップの香りが一杯に立ち込めた収穫センターは大忙しです。
コンテナに詰められた毬花が、大型冷凍トラックに積み込まれた後、冷凍庫内には二酸化炭素の冷気が勢いよく吹き込まれました。凍結するまでのホップの鮮度を守るため、冷凍庫内の酸素を追い出すのです。
収穫したホップは、速やかに凍結します。
生のままマイナス50℃で急速に冷凍することにより、みずみずしい香りを保つことができるのです。
通常のホップ(ペレット※)は、乾燥したハーブや草木を思わせる香りであるのに対し、生のまま凍結したホップは、青草や果実のような新鮮な香り成分がたくさん含まれており、フローラルな香りが際立っています。
外国産のホップを生の状態を保ったまま冷蔵や冷凍で輸入するのは様々な課題がありすぎてとても難しいでしょう。日本で良質なホップが栽培されているからこそ可能となる、世界でもほとんど例をみないホップの使い方ではないでしょうか。
通常ホップの毬花は、選別後デリケートな温度管理のもとで乾燥し、ペレット工場で圧縮・固形化されます。ペレット化は次の収穫まで安定した品質のホップを確保するためには有効な加工法です。
ホップペレット
保存には向いています
凍結したホップは、粉砕時の温度上昇を避けるために、液体窒素下で凍結したまま粉砕します。そこまで?と思われるほどに鮮度への細心の注意を払うのは、やはりデリケートな摘みたてのホップの“みずみずしく華やかな香り”を保ちたいという、キリンならではの品質へのこだわりです。
粉砕されたホップは空気をシャットアウトするアルミの袋に凍ったまま窒素封入され、キリンビールの工場に運ばれてゆきます。
キリンの品質保証部門ではホップの品質検査を行い、検査結果を製造部門に受け渡します。
ペレットとは違う
みずみずしい香りがそのまま
凍結したホップに比べて、少し黄色みがかっているのは、粉砕によってルプリンの黄色が混ざっているからです。
とれたてのホップの毬花は約80%が水分で、冷蔵だけではすぐにしおれてしまいます。3日もたつと見た目も香りもずいぶん変わってしまいます。
わずか3日でこんなに変わってしまいます。。。
ビールづくりは、仕込工程から始まります。(ピックアップ ビールの仕込)
「一番搾り とれたてホップ生ビール」には、麦芽を糖化してできた「もろみ」から最初に流れ出る一番搾り麦汁のみを使います。
丁寧にろ過された一番搾り麦汁は麦汁煮沸釜に移され、ここでいよいよホップを加えます。
ホップは、通常は麦汁煮沸の途中で添加します。
しかし、「一番搾り とれたてホップ生ビール」で使用する凍結ホップは、煮沸終了後に添加するのです。これも、熱で香りが損なわれるのを最小限に抑えるための大切なポイントです。
麦汁煮沸釜に凍結ホップを投入します。
釜に凍結ホップを投入しているこの光景、実は普段は見られない光景です。通常のビール製造では、ホップの添加は完全自動化されており、ここに人の姿はありません。少し遠くからみてみると・・・。
普段はほとんど人影のないこの場所に、「一番搾り とれたてホップ生ビール」の仕込の時には、スタッフがいっぱい。
凍結ホップは自動で添加することが難しいため、人の手で投入するのです。しかも、1袋や2袋ではありません。加えて、「とれたて」の香りを最大限に生かすには、短時間で添加することが重要。数十袋ものホップを素早く添加するために、スタッフは添加タイミングの前から今か今かと待ちかまえ、煮沸が終了するやいなや、次々に投入します。
緊張感がありながらも、今年の「一番搾り とれたてホップ生ビール」の出来上がりを想像してワクワクする瞬間です。
こうして、凍結ホップが添加された麦汁は、発酵工程へと受け渡され、約1ヶ月、ビールになるのをじっくり待ちます。
原料から仕込まで、こだわりと手間暇をかけた「一番搾り とれたてホップ生ビール」。幾重にも重なった人の想いも感じていただけたら、うれしく思います。
※記載された情報は、2014年以降現在までの情報です。