ビールの基本
ビール新時代の幕開け
~ビールの定義拡大~
この春、「ビール」が変わります!
酒税法改正が伝える、ビール新時代の幕開け
ナビゲイターは「神の味覚」を持つ男。キリンビールの田山智広さん。

田山智広
2015年にオープンした「スプリングバレーブルワリー(SVB)東京」のマスターブリュワーとして年間約40種ものビールを手がける田山さん。大地の恵みを原料としたビールづくりを、極限までロジカルに推し進める田山さんの「設計するスキル」は、「つくり手」と「のみ手」の垣根を超えて、多くのビール愛好家を刺激し続けています。
ビールの「新定義」はこれだ!!
①麦芽の比率が67%→50%に
②米やコーンに限定されていた副原料が→果実や香辛料、ハーブの使用も可能に


すなわち副原料の比率&種類が大幅に緩和され、
「ビール」の種類が一気に広がることに!

世界的にはフルーツやハーブなど香り付けを楽しむビールというのは古くからあったんです。ただ日本ではそれが「発泡酒」に分類されることで「ビール」と別物だという誤解を生んでしまいました。今回の酒税法改正(2018年4月1日)は、品質的には遜色のなかった発泡酒なども「ビール」と認めることで、「ビールには無数のバリエーションがある」というグローバル・スタンダードに従ったと言えるでしょう。個人的にはようやくという感じですね。
本当はビールなのに定義的には「ビール」と呼べない……。
そんなジレンマがついに解消されて、
日本のビールもいよいよ個性あふれる多様化の時代に入ったのです!


新しいビールの副原料を考えてみよう!
副原料の選択肢が広がり、これまで飲んだことのない新しいビールの誕生に期待もふくらみます。そこでさっそく、「私だったらこんなビールが飲んでみたい!」と、各分野のマイスターたちが斬新なアイディアを提案してくれました。はたしてSVBマスターブリュワー田山さんのジャッジやいかに。
和菓子職人の「私だったらこんなビールが飲んでみたい!」

ごまビール
「ごまは和菓子にも多く使われているし、比較的合わせやすいのではないでしょうか。香り付けの意味でもすごくいいんじゃないかな」

面白いと思います。相性としてはピルスナー・タイプより濃い目のダークな感じが合うかな。ただ、ごまの油分ってビールとの相性が良くないんですよ。泡が立たなくなるんです。そこをケアできるかが鍵ですね。あるいは逆転の発想で「泡が立たないビール」を狙ってみるとか。
[ビール未来度75%]


佐藤隆一さん
くつろぎ和菓子 金海堂
大森で70年続く老舗和菓子屋の3代目。時々刻々に応じた和菓子づくりを志し、日々、味の探求に勤しむ。看板商品は酒まんじゅう。

珈琲マイスターの「私だったらこんなビールが飲んでみたい!」

乾燥コーヒーチェリー(カスカラ)ビール
「焙煎したコーヒー豆を使ったビールは多いですが、種子ではなく赤い果実と皮の部分を使います。乾燥した果実部分は香りも特徴的で、甘酸っぱくフルーティ。ポリフェノールも豊富で中南米ではカスカラティーとして愛飲されていますから、ビールにつかっても面白いのでは」

これは知らなかったなあ。へー、豆ではなく実の部分を使うんですね。めっちゃ面白そうじゃないですか! 今すぐにでも試してみたいです。もともとお茶系はビールの副原料として魅力的だとは思っていまして、いろんな使い方ができるんだけれど、これはノーマークだったなあ。コーヒーチェリーという名前も魅力的ですし、抜群のアイディアだと思います。
[ビール未来度98%]


鳥川健さん
エモ珈琲
2011年に町田で開業した自家焙煎珈琲豆店。店主の鳥川さんは日本料理の修行を経験したのち、珈琲の奥深い魅力に惹かれて転職した異色のキャリアの持ち主。

多国籍料理人の「私だったらこんなビールが飲んでみたい!」

唐辛子ビール
「うちのような色んな香辛料を使う店では、基本、普通のビールが一番だと思います。スパイス系のビールはtoo muchになってしまうんですよ。ただ唐辛子だと辛さが混じり合って、食欲増進につながるかも。タイプとしては辛さの中に甘さを感じるものが良さそうですね」

なるほど。スパイシーな多国籍料理は、ドリンクもにぎやかにすると、料理と喧嘩しちゃうんですね。わかる気がします。唐辛子もあまり辛くない唐辛子ってありますよね。辛さをまともに使うのではなく、あえてピリッとしたリフレッシュ感を狙うというのは、僕も山椒を使ったビールで経験があります。でもメキシコにあるパラペーニョを使ったビール、あれは辛かったなあ……。
[ビール未来度70%]


小澤雄志さん
OZAWA
レゲエシンガーでもある異色の料理人・小澤さんは、スペインバルやイタリアンなど様々な料理店を渡り歩いたのち、2014年に祐天寺で「OZAWA」をオープン。

日本でビールがカルチャーとなるために
田山さんがSVB東京のマスターブリュワーとして日々ビールと接してこられて、
日本のビールを取り巻く環境が変わったなと思うことはありますか。

最近変わったなと思うのは、とくに若い女性のあいだで、ランチと一緒にビールを楽しまれるお客さんが増えたということですね。フルートグラスにジャズベリー(SVBの定番クラフトビール)を一本ぽんと置くと気分も上がるし会話も弾むのでしょう。アルコール度数も低いですしね。彼女たちのような、合理的な発想でビールを生活に取り込む人が増えたら、日本のビールを取り巻く環境も、新しいカルチャーとして根付いてくると思います
ブリュワーとしても、そうした多様化するニーズに応えていかないといけないわけですが、田山さんにとって「ビールづくり」の到達点はどこにあるのでしょうか。

やはり究極的には、日本でしかつくれないジャパンスタイルのビールを確立させたいと思っています。いろんな世界のビアスタイルを再現したところで所詮は本家にかないません。ならば、日本でないと飲めない、それを飲むために日本に来ようと思わせるビールをつくるのが、僕たち日本のブリュワーが進むべき道ですし、それは可能であると確信しています
居酒屋に入って「とりあえずビール」。そんな日本独自のビール文化も愛してやまない田山さん。しかし世界中のビールを飲んできた田山さんだからこそ、従来の枠にとらわれない、新しいビールカルチャーを生み出し育てる必要性も痛感しているのだとか。今回の酒税法改正が、そんな気運の追い風になることは間違いないでしょう。

