【あ】
アインベック・ビール(あいんべっく・びーる)
アインベック・ビールとは、当時はまだ珍しかったホップを添加したビール。ドイツ北部の都市が中心となって形成したハンザ同盟は、14世紀後半に最盛期を迎え、加盟都市が90を超えるまでに勢力を拡大しました。貿易の中継地として栄えたハンザ同盟の諸都市において、ビールは主要な取引商品。1351年に小都市アインベックで誕生したホップを添加したビールは、代理販売をしていたハンブルクによってドイツ南部やオランダ、スウェーデン、ロシアにまで広がり、ハンブルクの市庁舎は「アインベックの家」と呼ばれるほどでした。

アウガルテン(あうがるてん)
アウガルテンの前身は、1718年、マイセンに次ぐヨーロッパで2番目の陶磁窯としてハプスブルク王朝下で産声を上げたウィーン磁器工房。女帝マリア・テレジアの時代には国営化。女帝お抱えの窯として技を磨き、熟練した職人が手作りする芸術性の高い作品には、当時の栄華を物語るデザインが残る他、アール・デコ期に“ウィーン工房”のヨーゼフ・ホフマンとコラボレートした斬新なデザインも揃い、世界の表舞台で数多く愛用されています。

アビランド(あびらんど)
ダビッド・アビランドが1842年に創立。アビランドが一躍脚光を浴びたのは、白磁のリモージュ焼きに施した斬新な絵付けから。リモージュ焼き自体にも大きな改革をもたらす出来事で、ダビッド・アビランドは「リモージュの父」と謳われるようになります。3代目のウィリアムズの時代には、秘伝とされていた中国青磁の色を作り出すことにも成功し、ヨーロッパ製の白磁と青磁の両方を生み出す窯として、名声を更に高めます。伝統の技術と創造性を融合させる姿勢は今も受け継がれ、フランス屈指の窯にその名を連ねています。

アミラーゼ(あみらーぜ)
でんぷんを糖化する酵素。でんぷんなどを含み食糧や飼料として幅広く利用されている麦などの穀物は、発芽することで、でんぷんを分解するアミラーゼと呼ばれる酵素を多く生成します。麦芽のでんぷんをアミラーゼの作用により糖分に変えることを糖化といいますが、現代のビール造りでは、麦芽とともにコメやトウモロコシなどのでんぷんも利用しています。麦芽などを細かく砕いてお湯とともに、アミラーゼが働きやすい温度で混ぜ合わせ、糖分に変えていきます。

アラビア(あらびあ)
スウェーデンの老舗陶器メーカー、ロールストランド社の子会社として、1873年に設立。独自のカラーを築き始めたのは、20世紀に入るころからです。特に1916年の独立以降は、北欧を代表するデザイナーや陶芸家を次々に起用し、伝統に縛られることのない新鮮な作品世界を広げており、今や北欧最大の窯として世界中に存在を知られています。その作品のほとんどがストーンウェアで、そのままオーブンにも冷蔵庫にも入れられる丈夫なつくりであることも、実用性に妥協しない北欧アートならではの特徴です。

有田焼(ありたやき)
日本初の磁器を生み出した世界的な名窯。誕生以来、急速に発展し、世界中で名を知られる。有田の陶芸家が生んだ繊細な作風 “柿右衛門様式”は、ヨーロッパ初の磁器を生んだドイツのマイセンや、磁器発祥の地・中国の景徳鎮窯が模倣するほどの影響力をもつ、素晴らしい作品です。陶器よりもはるかに優れた磁器が、日本で初めて誕生したのは江戸時代に入って間もない、17世紀初頭。これより先の16世紀末、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、朝鮮半島から九州・有田地方に連れてこられた陶工たちが磁器の原料となる長石を発見し、有田で磁器の焼成に成功。有田焼は出荷する港の名にちなんで、別名「伊万里焼」とも呼ばれるようになりました。

アルコール発酵(あるこーるはっこう)
糖分を分解してエチルアルコールと炭酸ガスを生成する発酵。ろ過した麦汁にホップを加えて煮沸し、苦味と香りをもたらしたあと、約5℃に冷やして酵母を加えます。麦汁中にはブドウ糖や麦芽糖などの糖分があり、酵母がこれを分解してエチルアルコールと炭酸ガスを生成します。この発酵工程でできあがったものが若ビールです。

アロマホップ(あろまほっぷ)
香り付けに使われるホップ。香りのホップともいう。苦味のホップはビターホップといい、目的別に2種類を使い分けたり、選りすぐりの1種類のホップでまかなったりします。近年ではホップも品質改良が進み、香りのいいビターホップや苦味の強いアロマホップもあります。一般的には麦汁にビターホップを加えてから一時間以上煮込み、新たにアロマホップを加えて香り付けをする製法が主流でした。

泡(あわ)
ビールに欠かせない存在。美しい泡は見た目にも美味しい。ビールの泡にはフタとしての役割があります。グラスに注いだビールが空気に触れて味が落ちるのを防ぎ、また炭酸ガスを逃しにくくしたり、口当たりをやわらかくする効果もあります。泡をつくるのはビールの中に含まれる苦味のもとイソフムロン。たんぱく質と結びついてビールならではの美しい泡をつくりだすのです。泡とビールの理想的な割合は3対7。ドイツでは白く艶やかな泡を「ブルーメン(花)」と呼んでいます。

アンモニア式冷凍機(あんもにあしきれいとうき)
ドイツの技術者カール・フォン・リンデが開発した冷凍機。24時間に6トンもの製氷をおこなうことが可能。それまでは1キロリットルのビールの製造に、1トンの氷を消費していました。この発明により下面発酵のラガービールは一年中醸造することができるようになり、上面発酵にこだわっていた多くの醸造所が、下面発酵に切り替えました。

【い】
イズニク(いずにく)
16世紀、オスマントルコ全盛期に、トルコ西北部のイズニクの町で開花。多彩な色使いが印象的な陶器。17世紀後半以降、生産は急速に衰え、復興の気運が高まったのは、19世紀に入ってから。それをリードしたのが、オスマン帝国の窯場に端を発するユルデュス社です。イズニク陶器の象徴であるターキッシュ・レッドの再現に成功し、1世紀以上にわたってトルコ特有の磁器復刻に力を注いでいます。

【う】
ウィットブレッド社(うぃっとぶれっどしゃ)
蒸気機関をいち早く醸造所に導入したロンドンを代表するビール醸造会社。18世紀後半に発明された蒸気機関。当時導入された蒸気機関はおよそ10馬力の力で、水の汲み上げや麦芽の粉砕に使用されました。19世紀半ばになると多くの醸造所の敷地内に鉄道の引き込み線が張り巡らされ鉄道が走りました。蒸気機関は、ビールづくりにおいて、醸造工程だけではなく輸送面でも大きな影響を与えました。

【え】
エーベルスのパピルス文書(えーべるすのぱぴるすぶんしょ)
紀元前1900年頃にエジプトで書かれた文書。800種以上の薬品の処方と病魔退散の呪文等が記録されており、この中でビールは薬の材料としても使われています。甘いビールに脂肪の多い肉、ブドウ酒、セロリ、干しブドウ、イチジクを入れて煮て濾したものが食欲増進剤として使用されたり、またガチョウの脂肪、イチジク、ハチミツ、クミンシード、コリアンダー等を混ぜたものを鎮痛剤、胃腸薬、咳止め薬、肝臓の薬として使用していました。ビール粕を使った腫れ物のしっぷ薬の処方も記録として残っています。

エールハウス(えーるはうす)
エールを提供するイギリスの居酒屋。エールとは穀物でつくるお酒のこと。イギリスにはローマ統治の時代に敷かれた見事な道路網が活用されており、これらの道路沿いにエールハウスが出現。9世紀末には巡礼者たちの飲食施設として、おびただしい数のエールハウスが建ち並びました。家庭のビールづくりは女性の仕事とされ、エールハウスを切り盛りするのも、「エールワイフ」と呼ばれるビールづくりに習熟した女主人でした。

エチルアルコール(えちるあるこーる)
酒類の主成分。エタノールや酒精ともいう。ホップを加えて煮沸し、苦味と香りをもたらした麦汁を約5℃に冷やして、酵母を加えアルコール発酵させることで生成されます。麦汁の中にある糖分が分解されて発生するアルコールがエチルアルコールです。分解されたもう一方は炭酸ガスになります。

【か】
カールスバーグ社(かーるすばーぐしゃ)
近代ビールの三大発明のひとつである酵母の純粋培養法を確立したエミール・クリスチャン・ハンセンが勤務したデンマークの会社。ハンセンはこの会社の微生物部門の研究所で研究を重ね、ビールづくりに適した酵母のみを抽出し培養する方法を発明。ミュンヘンで誕生した下面発酵のラガービール。その再興に尽力した地元ミュンヘンの醸造家ゼードルマイルからラガー酵母を提供されたカールスバーグ社は、科学の分野に力を入れてラガービールの優位性を際立たせました。

化学新書(かがくしんしょ)
日本人で初めてビールを醸造したといわれる川本幸民のビール醸造法を記録した書物。内容は現在のビール醸造技術と比べて大きな違いはありません。製麦や酵素が最もよく働く温度についての正確な記述、糖化や酵母の働きについても詳しく記録されています。とくに幸民は糖化についてとてもよく理解していたようです。幸民は常温でできる上面発酵で醸造したと考えられますが、書物のなかには、上面発酵と下面発酵の醸造法の発酵温度の違いも記されていました。

角杯(かくはい)
ゲルマン人がビールを飲むときに使用した器。主に野牛の角を使用。当初はビールを飲むためのだけの器でしたが、1世紀頃には装飾を施したり、ゲルマン語を表記化したルーン文字を刻んだ角杯が見られるようになります。ルーン文字は神々に由来した霊的なシンボルとして考えられていたため、その角杯でビールを飲んだ者にも、不思議な力や勇気が与えられると信じていたといわれています。

家政百科(かせいひゃっか)
フランスの司祭ノエル・ショメールが編集した百科事典。1709年刊行。家庭の生活設計や家畜の飼育、病気やけがの治療法、魚や鳥の捕獲、作物の育て方など、さまざまな実用的な内容を収録しています。幕府の命令により1811年以降、蘭学者大槻玄沢・馬場貞由らが長い年月を費やして『厚生新編』として全編を翻訳しました。

【く】
グーズ(ぐーず)
2〜3年、樽で熟成させたランビックと、熟成が1年ほどの若いランビックを、ブレンドして作ったビール。心地よい酸味があり、炭酸もビールというよりシャンパンに近い。テイスティングで「馬小屋」「倉庫」などと表現される個性的な香り。びんに詰めてからもさらに長期間熟成させますが、その間にびんの中で二次発酵が行われ、最初のランビックとはまったく違ったビールができあがります。ブレンドされた若いランビックに糖が残っており、びんのなかで活発な二次発酵が進むため、シャンパンボトルに詰められてコルクで栓をされるのが一般的です。コルクを抜くと、まるでシャンパンのようにグラスの中で発泡し続けます。麦で作ったスパークリングワインともいわれます。

グルコース(ぐるこーす)
単糖類の一種。ブドウ糖ともいう。炭水化物代謝での中心的化合物で、動植物界に広く分布しています。大麦の麦芽からつくられる麦汁にも含まれており、ビール醸造の工程では、酵母を加えることでアルコール発酵がおこり、グルコースはエチルアルコールと炭酸ガスに分解されます。

【け】
ゲルマニア(げるまにあ)
西暦98年にローマの歴史家タキトゥスが執筆した書物。当時のローマ人から見たゲルマン人の生活や風習が詳細に描かれ、ゲルマン研究の第一級資料。ゲルマン人のビールについても記載されています。タキトゥスはゲルマン人のビールについて、大麦または小麦でつくられた葡萄酒に似て品位の下がる液体と記しています。当時のゲルマン人はビールの保存や味付けのため、自生する「やちやなぎ」や「いそつつじ」、「マンネンロウ」や「西洋のこぎり草」など、種々雑多な植物を使用していました。

【こ】
酵母の純粋培養法(こうぼのじゅんすいばいようほう)
ビールづくりに適した酵母のみを抽出して培養する方法。エミール・クリスチャン・ハンセンがデンマークのカールスバーグ社の研究所で発明しました。この方法の発明によって、より良いビールをつくるための酵母が、どこででも手に入れることができるようになりました。パスツールの「低温殺菌法」、リンデの「アンモニア式冷凍機」と並んで近代ビールの三大発明と呼ばれています。この技術によって下面発酵のラガービールが表舞台に押し上げられました。

混成酒(こんせいしゅ)
醸造酒や蒸留酒にフルーツや香草や砂糖などほかの原料を混ぜてつくったお酒。梅酒、ヴェルモット、カンパリ、キュラソーなど酒類は豊富。そのほとんどが甘くてアルコール分が高いことが特徴です。人類はムギやコメ、ブドウから醸造酒をつくり、その醸造酒から蒸留酒をつくり、そして、醸造酒や蒸留酒にいろいろなものを加えて混成酒をつくってきました。

