ビールの歴史
古代エジプト人は、うまいまずいより、
食べられるだけで幸せを感じた

食べたものをうまいまずいだけで評価するのは現代人。古代エジプト人は、食べられるだけ、ビールを飲めるだけで幸せだった。それは自然や神の恵みを授かっているという実感があったから。
今、現代人が陥っているのは──私もそういう傾向がありますけど──ものを食べたときに、うまいかまずいかだけで評価するんですね。でも古代のエジプト人は、食べられるだけで幸せなんです。ビールも飲めるだけで幸せ。コクがどうとかキレがなんだとか言いません。
とにかくこの世で何が一番幸せか、それは食事の時なんですね。つまり自然の、神の恵みを授かっているという実感があったのだと思うのです。
ですから農産物でもビールでも、まず神様に捧げて、それからいただくという姿勢。これは昔の日本にも共通していますよね。
なぜ食べものを神様に捧げるかというと、それは「食べる」ということが、ほかの生命体のいのちを奪うことだからなんですね。
それは今も昔も同じことで、実際に食べているものも、肉に魚に野菜に果物、それからパンとビール。4000年以上たっても、あまり変わっていません。
要するに、人間の原点というものは基本的に変化していないわけです。それなのに、グルメだとか飽食の時代だとか言っている。
そうしたことについては、このあたりでもう一度再考しないといけないのではないか──と思います。
by 吉村作治 早稲田大学名誉教授 エジプト考古学者