[ここから本文です。]

ビールの歴史

ビールとワイン。
どちらも醸造酒だが、製造技術は
ビールの方が数段上だった

どちらが古いかというと、たぶんワイン。学術的な根拠はないけれど、同じ醸造酒でもワインのほうがつくるのがラクだから。ビールは二段仕込みで、より手間がかかった。

古代エジプトにおいてビールは、王も貴族も庶民も等しく口にする飲みものでした。その一方で、ぶどう酒──ワインという飲みものもありました。
よく、ワインとビールではどちらが古いのかと訊かれるのですが、正直なところ、わかりません。

なぜわからないのかというと、学術的に時代を確定するためには、何か証拠や根拠が必要です。土器だとか記録とか、それ相応の地層から出てくる物がなくてはいけない。
でもビールやワインのような液体は地層からは出てきません。したがって壺とかそういう物で考えていくわけです。
しかし古代エジプトでは、ビールを入れる壺もワインを入れる壺も、水を入れる壺も穀物を入れる壺もそう違いはない。だからどちらがどうとは、学術的な立場からは断定できません。

ただ、まあ、どっちが早いかっていうと、おそらくワインが先なんだろうと思います。
なぜかというと、それはワインとビールの造り方の違いから。両方とも醸造酒ですけれども、つくるのに一段も二段も上の技術が必要なのがビールです。

ブドウの実には皮の部分にすでに酵母がついていますから、踏んづけてつぶして、ある程度酵母を活性化させればアルコール発酵が進みます。アルコールが先にできますから、乳酸菌も適度に殺されていって、ちゃんとしたワインが勝手にできてしまうんです。
でもビールは、日本酒と同じで二段仕込みです。固体発酵させたあとに、一次発酵をさせて、さらに二次発酵をさせてという手順で、とても手の込んだつくり方になっています。

by 吉村作治 早稲田大学名誉教授 エジプト考古学者