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ビールの歴史

庶民も呆れる?
古代メソポタミアの
絢爛豪華なパーティー

世界史の例に漏れず、古代メソポタミアにおいても、王侯貴族の贅沢ぶりは想像を絶するものがあった。
紀元前800年代後半、メソポタミアを中心に全オリエントを支配したアッシリア帝国では、時の国王アッシュルナシルパル2世が、6万9574人もの賓客を招待、10日間にわたる絢爛豪華なパーティーを催したと石板に記録されている。
いっぽう庶民の普段の食生活は、パンとビール、それに豆類やタマネギ、キュウリなどを少々。あとはたまに魚の干物などが食卓に並ぶ程度で、羊や牛などの肉や乳製品は、身分の高い者しか口にできなかったという。

*以下の物語はフィクションであり、登場する人物および団体は、すべて架空のものである。

「おい女将」
と石工のハルツは、アシの茎のストローでビールを吸いながら言った。
「こないだの国王が開いたパーティー、大そう賑やかだったみたいじゃないか。10日間で1万個のパンと1万壺のビールが無くなったんだとよ」
「知ってるとも。おかげでこちとら、原料の大麦もエンマーコムギも不足して、ろくにビールがつくれやしない」
女将はあきらめ気味にそう答えた。
そうか、どうりで今日のビールは麦粒が少ないわけだ、とハルツは得心する。通常は麦粒をよけてビールの上澄みだけを飲むため、ストローは欠かせない。ところが今日のビールは、ストローなしでもじゅうぶん飲める。ビールに濁りがない。だがそのぶん味に深みがない。
「穀物だけじゃないよ」と女将が続ける。
「牡牛が1200頭、子牛と羊が3000頭、子やぎ14000頭に鹿5000頭。それから1000羽の鴨に10000羽のキジ、魚も10000匹ときたもんだ」
「もういいよ」とハルツは遮った。
「話を聞いただけで、腹がふくれてきたぜ」
ハルツはいつもより早めに切り上げ、1万壺のビールを想像しながら、帰路についた。