ビールの歴史
キリンビールは自らの新説を
ベースに新王国エジプトビールを
再現してみた

キリンビールの研究が解き明かした、驚くべき新仮説の製造工程を詳しく紹介しよう。
・円錐パンづくり
パン種はデュラム小麦麦芽を粉を水でこねたもの。これを土器の型に入れて焼く。熱によってデンプンの一部が糖に変わる。このパンを細かくほぐして、次の工程へ。

・サワードウづくり
デュラム小麦麦芽の粉にサワー種と水を加えてこね、十分な酸味が出るまで約2日半寝かせておく。サワー種とは乳酸発酵が十分進んだ生地で、乳酸と乳酸菌を多く含む。サワー種を混ぜると雑菌の増殖を防ぎ、効果的に乳酸発酵が進む。

・床上固体発酵(好気発酵※)
焼いたパンをほぐしたもの、サワードウ(乳酸と酵母)、デュラム小麦麦芽の粉、デーツ(ナツメヤシ)ワインを混ぜてこねる。この生地を平たく伸ばし、重ねて1日寝かせる。
平たくするのは空気に触れる面積を増やすため。小麦やデーツに付着していた酵母が生地について活動を始める。デーツワインのアルコール、サワードウの乳酸が、酢酸菌など雑菌の繁殖を押さえてくれる。
※好気発酵:酸素が存在する状態での発酵。酵母は糖を分解して、増殖のためのエネルギーをつくる。


・土器内固体発酵(嫌気発酵※)
生地は次に土器の中で35日間発酵を進める。土器に入れるのは空気に触れさせないため。無酸素状態になると酵母は、生地の中の糖を食べてアルコールを作る。
※嫌気発酵:酸素が存在しない状態での発酵。酵母は糖を分解してアルコールをつくる。

・希釈
土器内で固体発酵させた生地を水、またはデーツジュースで薄める。水の量は、壁画に書かれている通り、生地6に対し、水7(容量比)。生地を水で薄めることにより、自らつくりだしたアルコールで弱っていた酵母が元気になる。
白い壺=生地
茶色い壺=水

・デーツ(ナツメヤシ)ジュース添加
生地を薄めた液を1日発酵させたものに、デーツジュース(糖分)をろ過して加え、さらに1日発酵させる。


・円形パンと小麦麦芽の粉を添加
デーツジュースを加えて発酵させた液に、デュラム小麦麦芽の粉でつくった円形パンと、デュラム小麦麦芽の粉を添加する。古代エジプトでは足で踏んで混ぜていたようだ。

・ビール壺詰め
円形パンとデュラム小麦麦芽の粉を添加した液を壺に詰める。麦芽に含まれる酵素(アミラーゼ)の働きによって、パンのでんぷんが糖化。その糖を酵母が食べて、アルコールができる。つまり壺の中では、でんぷんの糖化と発酵が同時に行われているのだ。約1日半の発酵で完成。

・完成!
