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ビールの歴史

コープランドが最初に日本人向けに
醸造したのはドイツ風のビールだった

コープランドは、冷凍機がなかったために醸造方法にも工夫を凝らし、日本でなんと6種類ものビールを醸造していた。イギリス風のエールに代表される上面発酵、ドイツ風のビールに代表される下面発酵を各3種。そのなかで日本人向けに醸造したのはドイツ風のビールだった。

コープランドが醸造していたのはイギリス風のエールに代表される上面発酵の3種(ペールエール、ポーター、ジンジャエール)と、ドイツ風のビールに代表される下面発酵の3種(ラガービール、ババリアンビール、ボックビール)の計6種類だったことがわかっている。

上面発酵と下面発酵について簡単に説明しておこう。上面発酵のビールは、比較的高温(20℃前後)で発酵させたもの。発酵中に酵母が浮き上がることからこう呼ばれ、個性的な香りが特徴だ。一方、下面発酵のビールは低温(5℃)で発酵させ、発酵の終わりごろに酵母が桶の下に沈むもので、清澄かつすっきりとした味わいが基本。現代の日本で馴染み深いものがこのタイプになる。

下面発酵のビールの中でもラガービールは発酵温度を低く保たなければならないが、コープランドのもとには冷凍機がなかった。そこで10月から3月までの寒い時期に仕込みが行われ、夏でもあまり温度が上がらない醸造所敷地内の横穴で貯蔵、主に夏から秋にかけて出荷された。

コープランドが使用していたものと
同時代のドイツの醸造装置

1881(明治14)年には、日本人向けに特別に醸造したビールを販売している。コープランドが日本人向けに醸造したのは、本来なら冷凍機が必要なドイツ風のビールだった。イギリス風のエールの流通が多かった当時の日本で、冷凍機を持たずに工夫をこらしてドイツ風のビールを醸造したコープランドには、日本人の好みが見えていたのかもしれない。