ビールと器
フィンランドの人々の精神的な支えだった
叙事詩「カレワラ」
フィンランド人の民族精神が息づく、叙事詩「カレワラ」をモチーフに、北欧最大の製陶場アラビアを代表するデザイナーが手がけた名作です。庶民の暮らしに寄添う作品を生みつつ、高いデザイン性を追求するスカンジナビアン・デザインは、素朴で温かみのある絵柄と親しみやすい作風で、多くのファンの心を捉え続けています。
フィンランドの叙事詩「カレワラ」は、長くロシアの支配下にあり、1917年に悲願の独立を勝ち取ったフィンランド国民にとって、民族意識を高め、独立運動の精神的支えとなったものでした。これは、医学者エリアス・リョンロートによって収集された古代フィンランドに伝わる一連の叙事詩で、1835年に書物として発表されて以来、多くの芸術作品にも影響を与えてきました。

「カレワラ」によって独立の気運が高まっていた1873年、北欧最大の製陶所であるアラビアが誕生しました。当初はロシア向けの輸出陶磁器を制作する工房でしたが、1916年に国家に先駆けて独立を果たし、国民的製陶所として一般庶民の暮らしに向けた作品を発表してきました。一方で、能力豊かなデザイナーを積極的に採用し、彼らに100%自由な創作環境を提供しました。そして、1950年代から60年代にかけてスカンジナビア・デザインの一翼を担うことになったのです。
キリン ビヤマグ コレクションに並ぶ「カレワラ」の装飾を手がけた、ライヤ・ウォッジキネンもまた、1950年以降のアラビアを代表するデザイナーのひとりです。1947年からおよそ40年、アラビアの装飾デザインを手がけ、世界中にコレクターが存在する「カレワラ・イヤー・プレート」を20年以上にわたって手がけました。彼女にとって、「カレワラ」は創作の原点だったといいます。ビアマグに描かれている、動物や音楽を愛し、戦う勇気も持ち合わせたカレワの国(カレワラ。フィンランドの投影とされる)の狩人や釣り人、花や果実を摘む女性たちは、どこか現代風で必ずしも「カレワラ」の登場人物とはいえないかもしれません。しかし、イヤー・プレートと共通した緻密な構成や色使いから、「カレワラ」の精神がしっかりと宿っている作品に間違いないのです。

そんなビヤマグのボディには、アラビアが誇るストーンウェア(炻器)を採用しています。石のように堅くて丈夫な陶質は、鉄色とコバルトを使った神秘的な絵柄によくなじみ、北欧ならではの温かみがあります。素朴で親しみやすいその作風は、今もなお新たなファンを生み出しています。