ビールの歴史
エンマーコムギは古代エジプト人にとって、
なくてはならない大切な植物だった

古代エジプトの壁画には、当時の暮らしの様子が克明に描かれている。ここでは壁画などの資料から明らかになった、当時の人々とエンマーコムギの関係を、ヒエログラフ(表意文字)を通じて明らかにしてゆく。
ヒエログラフ
古代エジプトで用いられていた絵を簡略化した文字。たとえば手足、パンやエンマーコムギはこのような図形で表された。

播種 はしゅ
古代エジプトでは毎年夏、ナイル川が氾濫した。洪水が引くと土を耕し種を巻く。穀物を管理する役人が革袋や籠に麦を入れ、畑に播く様が見られる。この後ヒツジを畑に入れ、その蹄で種を地中に埋めた。

収穫 しゅうかく
種を播いて4~5カ月で収穫を迎える。麦は穂のところだけを刈り取る。残った部分はレンガを作る土に混ぜたり、よしずのように日除けに使ったりした。

脱穀 だっこく
収穫した麦の束を脱穀所の床に広げる。これを牛やロバに踏ませて穂から穀粒を取り離す。脱穀した麦粒は木製のスコップ状の道具で投げ落とす。軽い殻が風で飛ばされ、実と分けることができる。

保存 ほぞん
脱穀した麦は日干しレンガ作りの穀物倉に保存。麦は保存される前に厳密に計量、正確な量を記録する。

製粉 せいふん
麦の実を粉にする。製粉には2つの作業が必要で、まず乳鉢様の器に入れて搗く。この段階で殻やふすまを取り除き、残った穀粒はサドルカーンと呼ばれる臼に移され、粉に挽く。上質のパンを作るときは、臼で挽いた粉をさらにふるいにかけたようだ。

パン
エンマーコムギで焼いたパンは上質で供物などに用いられていた。「パン喰い人」と呼ばれるほどパン好きの古代エジプト人は、主に大麦のパンを食べていた。パンの種類は古王国時代で約20種、新王国時代には40種にものぼる。

薬
エンマーコムギは包帯薬としても使われていた。一晩水に漬けたものは目薬に、粉にして浸し布で絞った液に蜂蜜と油を混ぜたものは養毛剤として使われた。
ビール
古王国、新王国時代を通じて、ビールの主な原材料となった。いまもビール醸造に使った容器には、大麦とならんでエンマーコムギの粕が見つかっている。

写真提供・株式会社アケト