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2023年4月24日

CSVを実現する事業ポートフォリオを磨き上げ
キリングループの成長を加速

キリンホールディングス株式会社
代表取締役社長
磯崎 功典

「CSV経営」を掲げて10年

キリングループが2013年1月に「CSV経営」を掲げてから10年が経ちました。

今では従業員に広く浸透し、当社グループの“羅針盤”となっている「CSV」ですが、導入当初は社内外から理解を得ることが簡単ではなく、さまざまなご意見をいただきました。貴重なアドバイスを受け止めつつも、信念をもって歩み続けた結果、今、改めてこの羅針盤の確かさに手応えを感じています。キリングループの従業員が一丸となって、社会が抱える課題を解決し、同時にそれをビジネスチャンスとしてリターンを得ていく、そんな姿が見えてきていると感じています。

2022年は、新型コロナウイルス感染拡大前の事業利益水準まで業績を回復することができました。2019年に長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)を発表した後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、ミャンマー政変やロシアのウクライナ侵攻など、今日に至るまで社会システムや事業の根幹を大きく揺るがす環境変化がありました。しかしながら、CSV経営を掲げている我々の目指すべき未来、進むべき方向は正しいと確信をもち続け、課題を一つ一つ対処してきたことで、この結果を得ることができたと考えています。

  • 図:キリングループ・ビジョン2027実現へ

  • 図:キリングループ・ビジョン2027実現へ

私たちが目指すものは「世界のCSV先進企業」です。これは、どこまでいけば達成、というものではありません。もちろん国際的な基準にはきちんと目標を設定しながら達成していきますが、例えば、走り高跳びで1つの高さをクリアすればバーの高さがだんだん上がっていくように、上がり続ける社会からの期待に常に応えながら、追求し続けるものであると考えています。そして「世界の」と冠する以上、価値を発揮していく場所は日本だけではありません。キリングループは、文字通り「世界」を舞台として社会的価値と経済的価値を同時に創出するCSV経営を通じ、実際に世界の人々のお役に立ち、貢献していく存在になることを目指しています。

「発酵・バイオテクノロジー」で社会課題を解決する

これまで何度もお伝えしているように、キリングループで取り組む領域は「食・医・ヘルスサイエンス」の3つです。それぞれ単体で見れば、世界には私たちよりも大規模に事業を展開する企業がたくさんあります。しかしながら、どれか一つではなく、私たちのコア技術である「発酵・バイオテクノロジー」が通底するこの3つの領域において社会的価値・経済的価値を生み出すことで、キリングループは唯一無二のユニークな企業として存在し、社会に対して新しい価値を生み出すことができると考えています。

キリングループは、これまでたくさんの新規事業に取り組んできました。かくいう私も入社以来、さまざまな新規事業に関わりました。ほとんどが道半ばで埋もれていく中、今日まで生き残った事業に共通するのが「発酵・バイオテクノロジー」を生かしたものです。まさにキリングループのお家芸ともいえるもので、ここには連綿と受け継がれてきた技術や知見、そして揺るぎないストーリーがあります。この技術を「強み」として磨き上げ、活用していくことで、各事業での競争優位性を保つことができると確信しています。

KV2027で新たに打ち出したヘルスサイエンス領域は、まさにこのコア技術を活用して取り組んでいるものです。優れた発酵技術と生物学的知見を用いて、人々の健康に関する社会課題の解決に貢献できるヘルスサイエンス事業を成長させていく。これが、キリングループがこの先の100年も企業として存続し、持続的に成長していく未来を確かなものにすると考えています。

3つの領域における戦略課題と方向性

事業ポートフォリオの基盤は出来上がってきましたが、KV2027を実現するためには各事業の「稼ぐ力」をさらに強化する必要があると認識しています。

食領域では、ミャンマーから撤退した今、日本・豪州・北米が主な市場です。これらは成熟市場であり、取り組むべき課題は共通しています。それぞれの市場での成功体験をお互いに学びながら、プレミアム戦略の推進と生産性の向上に取り組むことで、今後も利益成長を実現していくことができます。例えば、酒類事業におけるクラフトビールの取り組みや、飲料事業における健康にフォーカスした付加価値の高いヘルスサイエンス領域の商品構成比の拡大などがプレミアム戦略の具体的な取り組みです。同時に、市場や消費動向の変化を踏まえた営業組織の最適化やICTを活用した営業プロセスの改善などを通じた生産性の向上にも取り組み、事業基盤を強化してまいります。

医領域については、グローバル・スペシャリティファーマとしての強固なグローバル事業基盤を確立していきます。主力の医薬品であるCrysvitaは2023年に売上収益1,500億円を目指すレベルとなり、ついにブロックバスターといえるまで成長してきました。今後も拡大していく事業規模に適したグローバルな供給体制の構築に向けて、検討を進めていきます。そして、次世代パイプラインも拡充していきます。現在、アムジェン社と共同開発しているアトピー性皮膚炎の治療薬「KHK4083/AMG 451(一般名:rocatinlimab)」については、Phase 3試験も大規模に進めていきます。さらに、新たなパイプラインとして眼に関する血管障害(滲出性加齢黄斑変性)の治療薬「KHK4951(一般名:tivozanib)」についても開発を推進いたします。

ヘルスサイエンス領域は、プラズマ乳酸菌などの健康に資するスペシャリティ素材をより多くの方々に届けることで、人々の健康課題の解決に貢献していきます。展開市場は、日本をはじめ、食領域とも関連のあるアジアパシフィック、そして最も市場の大きい北米です。現在、積極的にマーケティング投資を行っているプラズマ乳酸菌については、2027年までに売上収益500億円を目指して順調に推移しております。また、日本コカ・コーラ製品への菌体導出を開始するなど、当社の考えに共感いただいたパートナー企業との提携も更に進め、免疫市場の創造と拡大に取り組んでいます。加えて、協和発酵バイオが持つスペシャリティ素材であるシチコリン※1やヒトミルクオリゴ糖※2などのグローバルな製造・販売体制を整えることで、ヘルスサイエンス領域の成長基盤を強化していきます。なお、2027年までに売上収益2,000億円、事業利益率15%と掲げた目標に変更はありません。

  1. 脳や神経細胞にある細胞膜を維持する働きを持つ、体内に存在する成分。世界各国で脳疾患の治療薬や認知機能向上をサポートする健康食品などに利用されている素材。
  2. 母乳に含まれるオリゴ糖の総称。200種類以上が母乳中に含まれており、「免疫」「脳機能」などに寄与する研究成果が報告されている。

過去を振り返ると、日本の少子高齢化が進む将来を見据えて1980年代にスタートした医薬事業については、収益を得られるようになるまで時間を要したため、社内外に反対する人が多くいました。実際に利益が出るまで10年かかりましたが、今では医薬事業がキリングループで最も利益を稼いでいます。今後5年や10年先だけを考えれば、既存事業を伸ばすことに集中することでよいかもしれません。しかしながら、20年あるいは30年先の持続的成長と企業価値向上まで見通した上で、私はヘルスサイエンス事業を花開かせて「第三の柱」になんとしても育て上げたいと考えています。

キリングループの実行力を高め、実績で示していく

今後の成長を確実に実現していくためには、今まで以上にキリングループの組織能力を強化することが重要です。イノベーションを実現する4つの組織能力のうち、技術力に関しては、これまで食や医の領域においてさまざまなイノベーションを創出してきた研究開発力をベースに、ヘルスサイエンスという新たな領域での知財戦略を組み合わせ、新たにヘルスサイエンス研究所を立ち上げてさらなる価値創造に取り組んでいます。マーケティングでは、新たなマーケティング・ケイパビリティの開発、グループ横断の人財育成やノウハウの活用を目的とした「マーケティング・セントラル機能」を強化することで事業会社の成長支援に取り組み、その成果が着実に見え始めています。そして、社内のICT活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進については、キリングループで働く従業員一人一人の意識の高まりを感じています。既存事業のバリューチェーン変革・コーポレート機能の変革・新しいビジネスモデル開発という3つの観点から、テクノロジーやデータを活用したビジネスの変革に取り組んでいますが、推進部門のみならず現場からも業務の高度化・効率化に向けたアイディアが出てき始めています。また、品質本位の徹底とともに効率と持続可能性の両立を実現するSCM体制の確立にも取り組み、各事業領域で確かな実績を積み上げていきます。

  • 図:多様な人材と挑戦する風土

これらの活動を進めるために欠かせないのが人財です。専門人財を外部から積極的に獲得するだけでなく、各機能に精通した社内人財の育成にも力を入れることで、専門性が高く多様な人財を増やし、イノベーションの創出につなげていきます。そして何より、挑戦を通じて従業員一人一人が活躍できる組織風土をつくり、私たちの「実行力」を高めていきます。

  • 図:多様な人材と挑戦する風土

今後も、株主の皆様をはじめとするステークホルダーからの期待に応え、さらなる信頼につながるようにまい進してまいります。そのためには、確かな「実績」で示していくことが必要であると認識しています。私たちキリングループは、CSV経営の正しさに確信をもち、2023年も前進していきます。そして、社会課題の解決と同時に経済的成長によって得られたキャッシュをグループのさらなる成長に再投資することで、短期的だけでなく中長期的視点での企業価値最大化を実現するサイクルをつくり出し、社会のサステナビリティに貢献しつつ企業としての持続的成長を実現してまいります。

今後も一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

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