未来のヒント

神田アーバンキャンプに参加して

参加したきっかけ

研究員の平田が報告

都市の楽しみを探し、街で一晩泊まってみるイベント、アーバンキャンプに行ってきました。このイベントは前回取材したMOSAKIがコーディネートしています。神田の中心地、廃校をリノベーションしたアーツ千代田3331の屋上で行われたキャンプは、アウトドアで知られているのとは全く別の醍醐味があり、その非日常感がたまらなく刺激的でした。そして、気が付くと自分達はそこに住む住民となり、集まった人とのひと時のコミュニティーを自然に作って楽しんでいました。そのイベントには、人と人の関係を考えるプログラムが隠されていると同時に、都市ならではの楽しみ方を発見する仕掛けがたくさんありました。今回は、実際アーバンキャンプに参加した研究員の平田が、体験報告します。

気負いのない仲間との出会い

アーバンキャンプ自体が、意外性のあるイベントのため、そこに集まる人たちは一見バラバラのように見えて実は共通する価値観を持っているように感じます。何か特別な事を求めて目的を持ってやってくるというよりも、「面白そうなイベントだからとりあえず来てみた」という、子供のような純粋な好奇心に近く、気負いのない人が集まってきていました。みんな初めて会う人なのですが、この不思議なイベントに集まってきたことで「同志」のような感じになります。特殊な空間や時間を共有することは、人と人を繋げていくのかもしれません。

テントを立てると住民になる

区画を予約するタイプのキャンプ場とは異なり、テントは屋上のどこに張っても良いといいうルールになっています。私たちは、出入口などを確認し、アクセスの良さや、眺め、近隣のテントで面白そうな人を探しながら場所を決めることにしました。テントという自分の持ち物を使って、「今日はココに泊まるぞ」という意思を持ってテントを張る感覚は、どこか家を建てる時、居を構えることと似ています。テントを張った瞬間に、神田の住民になったような気もするのが不思議です。

ゲストがホストに変わる

自分がイベントの参加者(ゲスト)であるにも関わらず、住民となって自分の領域が決まった時から、後から来た参加者を受け入れるようなホストの感覚になります。自分の町という意識が高まるからか、参加している人に自然に話かけたり食べ物を交換したり、炊き出しを作っている運営者の調理を手伝う気持ちも自然に芽生えてきます。普段は誰も住んでいなかった屋上という一時的な町だからこそ、共に関与していくような協力関係が自然に生まれてくるのかもしれません。

ホテルでは味わえない大きな家

参加者全員が繋がる訳でもありません。繋がりやすい環境ではありますが、繋がるかどうかは参加者に委ねられています。それでも暗くなってくると、共有スペースの焚火台とその周りを囲んだ椅子に、多くの人が自然とパラパラと集まってきて各々の時間を過ごし始めます。今度はそこが大きな家のリビングに見えてきました。それぞれの部屋にいるのがつまらなくなって、何となく皆が集まる所に出てくるイメージ。気が付いたらいなくなっていたりもします。自分の意志で居場所を選択出来るのが、かえって人との繋がりをつくりやすくするのでしょう。人と繋がる仕組みが、ホテルとの大きな違いかもしれません。

やってはいけないことをしているようなワクワク感

都会の中心にアウトドアな格好で現れて、大きなテントを持込んでいる時点で、既に周囲との違和感を醸し出しているのですが、そのはみ出した感じが楽しいのです。それは、公園で野宿をするような、やってみたいけど普段やれないことを体験出来た時に味わう興奮に近いかもしれません。そしてそこに集まった人達は、そんなちょっとした冒険を一緒にしているという遊び心が一体感を生み出します。

アーバンキャンプとは?

アーバンキャンプとは、「まちや都市を楽しむための気づきの仕掛け」だと思います。
「街中でテントを張って過ごす」ということ自体、日常にはないことですが、このキャンプに参加すると、一夜限りのこの町の住人になった気分になるという不思議な感覚が芽生えます。そして人と繋がろうとする気持ちも生まれます。そこには、特別なコンテンツは必要がなく、むしろシンプルで出入り自由な環境と人だけで十分なのです。何か特別なことをしようと力まなくても、未完成な部分を、自然とコミュニティーがその隙間を埋めようとする力が生まれてきます。街には生活に必要なインフラや、機能がたくさんあるので、その満たされた都市の中に、いかに一時的に未完成な場所を作ることで、コミュニティーの再生への気づきが芽生えるのです。

明確なゴールが決まっていないからこそ、人と人の新しい出会いや交流、その場が創り出す予想のつかないドラマが楽しくなるという大きな発見をしました。
人や社会のつながりを考えていく時、場創りは不可欠な要素の1つですが、今回のように、その空間に来た人が自然と他の人とコミュニケーションをとりたくなるような仕掛けを考えていくことこそが大事だと、体で学べたことが最大の収穫でした。

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