
これほど世界の多くの地域でビールが愛されることはなかったかもしれません。太陽や黄金を思わせる輝く液色と、真っ白できめの細かい泡との対比は、私たちキリンも決して見飽きることがなく、つくづく美しいなあと感嘆します。品質を追い求める醸造家の心の中には、いつもこの美しいビールの姿があるのです。
消えない泡の不思議
「泡と消える」と言われるほど、泡は身近なところでたくさん生まれては消えていきます。炭酸を含む飲みものはもちろん、お茶のようにサポニンを含む飲みものでも泡を形成しますが、ほとんどが液面に浮かぶと、はじけて消えてしまいます。ビールのようにきめの細かい泡が層を作って持続する飲みものは多くはありません。

大きな泡と細かい泡
飲みものをグラスに勢いよく注ぐと、空気を巻き込んで比較的大きな泡が形成されます。炭酸入りの場合は、続いて液中に溶け込んだ炭酸ガスがたくさんの細かい泡となって飛び出してきます。ここで、ビールの場合には、成分が気泡を包み込むため、すぐには消えないしっかりした泡が生まれます。この泡が液面から上下に泡の層(ヘッド)を形成していきます。ビールの液色は黄金色なのに、泡が真っ白に見えるわけは、青空に浮かぶ雲が真っ白に見えるのと同じ、たくさんの粒(気泡)の間で光が何度も反射(乱反射)するからです。

炭酸ガスを包み込むビールの成分

じつは炭酸ガスは水に溶けにくい性質(疎水性)があり、ビール中の疎水性成分同士で集まって存在しています。炭酸ガスはビールの疎水性成分にコーティングされた状態で泡になります。少し詳しく言うと左の図のように、おもに麦芽由来のタンパク質やホップ由来の苦み成分が炭酸ガスをコーティングし、さらにところどころで多糖類という糖の鎖が補強しています。だからビールの泡は消えにくく、しかも苦いのですね。
美しいだけではないビールの泡の大切な役割

ビールの泡はおいしさとも深い関係があります。感触として口当たりがよくなるだけでなく、苦み成分が泡に移ることにより、ビールそのものは熟成したまろやかな苦みが感じられるようになります。またビールが空気に触れるのを防ぐ「ふた」の機能により、ゆっくりと時間をかけておいしいビールを味わうことができます。
調達する

粒ぞろいや色の悪い粒が混じっていないかを確認しています
原料調達の段階から泡は大事な選定要素のひとつです。とくに穀物である麦芽については、ビールの泡の成分である麦芽のタンパク質が少なすぎると泡立ちが悪かったり、持続時間が短かったりしてしまいます。多すぎると、工程中でも泡立って噴きこぼれたり、酵母の働きに影響を与えたりします。そこで、麦芽の選定・購入時に、売り手(サプライヤー)と買い手(キリン)の双方で成分を分析して確認し、さらにキリン側では、小規模な発酵試験をして品質を確認しています。

粘土板に麦芽を一粒一粒埋めて、半分にスライスし、染色して発芽の進み具合を確認しています

実際に発酵試験をします
つくる
調達した麦芽は、厳重に封をされたコンテナでビール工場に届けられます。コンテナに異常がないかを確認した後、内袋の一つを選んで、外観をチェックします。さらに複数の内袋から麦芽をサンプリングし、チェック部門に受け渡します。

コンテナで届きます

内袋がぎっしり

複数の箇所からサンプリング
続く仕込み・醸造工程では、麦芽、ホップなどの原料サンプルのチェック結果や実物の状態を見極めて、常に求める品質に仕上がるよう工程を見守りながらビールを造っていきます。
工場出荷前にも品質を毎日確認します。確認事項には泡や液色なども含まれ、測定試験による定期的な確認も行っています。
加えて、実際にお客様に届いている商品の状態もモニタリングしています。キリンの総合飲料分析センターでは、全国にあるビール工場の商品を定期的に入手して、泡についても測定試験で確認します。
品質保証
泡の品質は、泡の量と持続性で確認します。測定法は専用の機械による測定と実測法を併用しています。実測法では、お客様のお手元と同じようにグラスにビールを注ぎ入れて測定します。ぶれのない測定には熟練の技術が必要です。熟練者は仕事を離れての酒酌でも、洗練された注ぎ技が見事です。
泡量の実測法
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グラスに注ぎ始めたとたんに、液面からはどんどん泡が形成されていきますので、注ぐ勢いは常に一定に、グラスぴったりの量を注ぎ入れ、間をおかずに次のグラスに注ぎ始めながら、動的な液面の測定ポイントをピンポイントでおさえていきます。
一定の勢いでビールを注ぎます
同じ条件で繰り返し測定します。液面の高さから、右から左に注いでいったことがわかりますね
泡持ち時間の実測法
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いくら泡量が良くても、速く消えてしまっては大切な泡の役割が果たせません。泡の持続時間も大切な泡の品質です。泡が消失するまでの時間を、グラスの下から当てた光が透けてくるタイミングで見て、泡持ちとして測定します。
注いだ直後
だんだん消えていきます
終了のタイミング

おうちでお飲みになるときにも、できるだけグラスで味わっていただくことをお勧めします。きめが細かく長持ちがする「状態の良い泡」をつくる注ぎ方もぜひお試しください。「豪快かつ繊細に」注いでいただけるよう、グラスはすこし大きめが良いようです。また、ビールは冷やしすぎると泡がきれいに立ちません。
→おうちでもおいしい一番搾りを楽しんでいただける注ぎ方をご紹介しています。




→とっておきの「おつまみ」から「デザート」まで
注ぎ方とおいしさの関係
待ち遠しいのがわかっていても、できれば「3度注ぎ」をお勧めするのには訳があります。この方法のポイントである「きれいな泡をつくりながら分けて注ぐ」方法が、ビールの香りや味わいにどのように影響するのかをキリンの酒類技術研究所で調べてみました。できるだけ泡が立たないように静かに3回に分けて注いだ場合と、「豪快かつ繊細に」泡の層をつくりながら3回に分けて注いだ場合を比較したところ、「豪快かつ繊細に」では揮発しやすい香気成分の香り立ちがよくなり、しかも泡の「ふた」の効果により揮発しにくくなるようです。また味わいについても、苦み成分が泡に移行することで、飲み始めのビールには熟成したホップのまろやかな苦みの比率が多くなり、飲み進めるにしたがって苦み成分が泡からビールに戻ることでしっかりした味わいになると考えられます。

- 1回目
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グラスの真ん中を目標に、最初は低い位置から徐々に高く、勢いよく注ぎます
グラスが泡でいっぱいになったら、ひとやすみ
泡とビールがおよそ5:5になったら2回目をスタート
グラスの中で香気成分が華やかに香り立ちます
- 2回目
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目標はグラスの真ん中のまま、2回目は優しく注ぎます
泡がこぼれない程度にいっぱいになるまで注いだら、ひとやすみ
泡とビールがおよそ4:6になったらいよいよ3回目です
きめ細かな泡が「ふた」の役割を果たしてくれます
- 3回目
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目標は変えずに、泡をそっと持ち上げるように注いでいきます
泡がこぼれそうですが大丈夫。飲み口から1~1.5cmぐらい上まで泡をゆっくり持ち上げる感じで
おまちどうさまでした。「3度注ぎ」の完成です!
きめのそろった泡がお互いを支え合い崩れにくく消えにくい、
しっかりした泡ができます
ビールの苦み成分が泡に移行するので、飲み始めの苦みはまろやかで、徐々にしっかりした味わいが楽しめます
ビアマイスターの注ぐご馳走ビールも

注ぎのプロの味わいが楽しめるのがビアレストラン「キリンシティ」です。社内資格制度で認定されたビアマイスターの注ぐ、本場ドイツ伝来の“3回注ぎ”をぜひ味わってみてください。胸に輝く「銀色のグラス」のバッジが目印です。おうちでの「3度注ぎ」がさらに楽しく味わえますよ。
※最後までお読みいただきありがとうございました。
記載された情報は、2014年6月時点の情報です。