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飲みものからくらしを考える

Vol.23 消費の時代からクリエイティブな時代へと変わる
~株式会社ロフトワーク代表取締役 林千晶さんに聞く~

ロフトワークは二人の代表、林千晶さんと諏訪光洋さんとで始めた会社です。今では100人を超すクリエイションチーム、そのスタートは2000年、すでに18年の歴史になります。創業時に決めた理念は「クリエイティブを世界に流通させる」。クリエイティブとは「創造的な」ということ、それは本来人間誰もが持っている本能なのだと言います。そうした人々の本能に火をつけ世界中の人々をクリエイティブにしていきたいと考えたのです。ロフトワークが創業した2000年は、まだ今のようにクリエイターという言葉は使われていない時代でした。プロダクトデザイナー・グラフィックデザイナー・アーティストなどの肩書きはあったものの、クリエイターという肩書きはなかったのです。彼らはそこに誰もがクリエイターであってよいのだということを発信し続けたのです。

消費の時代からクリエイティブな時代へと変わる

20世紀は人々を「消費者」にした時代でした。生産の合理化によって多くの人が安価にものを手に入れることができるようになりました。それは確かに社会を豊かさにしてくれた時代です。しかしその代償として、人々は自らつくるということを忘れてしまったのです。つくることを忘れた人々は、「買えなくなったらどうしよう」「手に入らなかったらどうしよう」という不安を抱くようになりました。その不安を打ち消すために働き、消費をくり返すのです。
一方自らつくるという行為は、先ほどの不安を軽減してくれます。簡単なことでもいいでしょう。例えば料理をつくるというような日常的なことでさえ、人間が元々持っていたクリエイティブな本能を喚起してくれます。つくることで、自分たちで生活を形づくっていけるという感覚を取り戻していきます。
林さんは今の時代を「つくるという延長線上にあるクリエイティブな社会に向かっている」と言います。クリエイティブとは「現状を超えていくこと、昨日まで無理だと思っていたことを可能にすること」です。一見難しそうに見えますが、クリエイティブであることは誰にでも可能なことです。社会へのインパクトの大小はあるものの、つくるという一歩によって今まで想像できなかったことが、明日にはできるようになるのです。
自分の想像を超えていくこと、それは想像した計画の枠を外していくこととも言えます。少し乱暴な言い方ですが、そもそも計画通りに進むことなど世の中にはひとつもないんだと理解するべきです。それは計画を立てないということではありません。計画から外れた出来事をどう受け入れていくのか、どう楽しんでいくのかとも言えそうです。だから林さんは「明日もきっと、今想像していないような出来事に出会える」と楽しみにするそうです。
先ほどの消費の時代には計画を遂行し計画の中で生きることが不安を消していったのですが、クリエイティブな時代にはむしろ思ってもいなかったような計画外のことが大事になるのかもしれません。ロフトワークでは事業計画より、それが楽しいと思えること、自分だけでなくみんなが楽しくなること、そして何より理念である私たちがクリエイティブになることそのことに意識を集中してきたと言います。

時代の先端を走る情報プラットフォーム

ロフトワークといえば様々なイベント、ワークショップを行っており、そうした会に参加された方もいるかもしれません。知の最前線を走る有識者や企業人、新たなチャレンジを試みるスタートアップの人などをゲストに、セミナーやワークショップなどのイベントや、時には底抜けに楽しい交流会やクリスマス会を行っています。プロジェクトをいきなりスタートさせるのではなく、まずは興味の対象に賛同する仲間を集めていく、するとそのコミュニティのなかから何かが生まれてくるのです。デザイナー、エンジニアや研究者など、常に先端を走り昨日までなかったことを見つけ出していくクリエイター達が一同に集まる環境が、さらにクリエイティブを増幅させていき、スピードを加速させていくのでしょう。こうしたネットワークの中から企業とロフトワークの間で仕事が生まれることも多くあります。企業が業務をロフトワークに依頼してくるというより、一緒に考え一緒にプロジェクトを立ち上げていくという感覚が近いかもしれません。
林さんは、企業の方も「最初はおそるおそる相談してくるんですよ」と笑って言っていました。こうした想像を超えていく仕事に初めから結果を求めることは難しいでしょう。それでもすでに設立から18年、ロフトワークは確実に成長し続け、企業の期待に答えてきたと言えるのでしょう。

FabCafeという試み

ロフトワークHPより(http://dodo.loftwork.com/ideas/fabcafe.aspx

もうひとつロフトワークのチャレンジの中でFabCafeという取り組みを忘れてはなりません。アメリカのMITから生まれた FabLabという活動をご存知でしょうか。日本でも鎌倉からスタートして今では18ヶ所のラボがあります。デジタルファブリケーションと呼ばれる3Dプリンターやレーザーカッターを備えた工作ラボで、クリエイターが自らデザインし、ものを作っていく場所です。ものをつくる場を手にいれることでものづくりの領域は広がっていきます。誰かに頼まなければできなかったものが自分の手でできること、または高価な金型を作らなければならなかったものを一品だけでも安価かつ簡単に作ることを可能にしたのです。このラボを使う条件は、つくったもののデータを公開すること、そして他の人に共有すること。先人がつくったデータを後に続く人が使うことで、ものづくりの進化を社会の財産としていくのです。
林さんはこの取り組みをもっと気軽に誰でもできるように、ラボとカフェと抱き合わせて人々が出会い、気軽に工作機械に触れる場所、FabCafeへと進化させたのです。FabCafe は日本では渋谷と飛騨、京都、そして海外では台湾・タイ・バルセロナ・メキシコへと広がっています。プロの知見を一般の人に公開し、普通の人が高いレベルのものづくりの領域へとアプローチできる仕組みを提供することで、ものをつくるというリテラシーを広く社会に広げていき、そして何よりもそのような人たちが集い話し合える場所をつくっているのです。ここでも「クリエイティブを世界に流通させる」という理念を全うしています。今やどの国のラボも多くの人で溢れ、魅力的なものづくりの場として広がっています。

渋谷100BANCHの試み

ロフトワークHPより(https://loftwork.com/jp/project/20171005_100banch

渋谷100BANCHはパナソニック・ロフトワーク・カフェカンパニーの3社で実践する、100年先の未来を考える探索プロジェクト。2017年夏にそのための拠点を渋谷の裏通りに作りました。プロジェクト参加者は3ヶ月間ガレージスペースを無償で自由に使うことができます。人脈のアテンドもします。面白いものであればパナソニックの事業計画にも折り込みます。オープンから1年が経過し、70を超すプロジェクトが生まれそれぞれ進化を遂げています。
100BANCHでは、想像を超えた、計画の枠を外れたクリエイションが起きやすい場づくりを目指しています。そのために2つのことを考えたそうです。1つはプロジェクト採択のルールを変えたこと。100BANCHでは選考委員の誰か一人でも面白いと思えば採択されます。複数の人が面白いと思うものでは、角が取れたものしか通過しないのです。枠をどう外していくか考えるより、その枠を外していくルールを作ってしまうことを試みたと言います。そして2つ目は空間づくり。開かれたアイデアにはそれに見合った空間が必要と気づいたそうです。そのような空間にいると自然と想定外を楽しむ気持ちになっていくこと、そのことも今回のチャレンジだと言います。

「どう生み出すか」と「どう伝えていけるか」

風土改革はどの企業でも重要課題です。様々なアイデアが生まれても企業の人たちの共感を得て実現し、さらに企業文化へと昇華していくには時間がかかります。企業の中では長年かけてつくられてきた様々な制度や思考フレームが自由な発想から生まれたアイデアを受け入れられにくくしています。そのため、どう生み出すのかということと同時にどう伝えていくかということも大きなテーマなのです。
林さんは次のことを心がけています。1つめはその枠組みに縛られないように問いを変えていくこと。問いそのものの中に枠組みを超えるような仕組みをつくるようにしています。そしてもう1つは外から見てかっこいいこと、楽しそうなこと。そうすることで社内の認知が広まります。内容よりかたちが先行することもあるのだと言います。「生み出すこと」と「伝えること」、両方を意識しながら、しかし自由に次から次と新たなアイデアを産み出すロフトワークの活動に人々は魅了されています。

是非みなさんも渋谷のFabCafe Tokyoや100BANCHをのぞいてみてください。感想などご意見をお待ちしています。

プロフィール

1971年生まれ
早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。
花王を経て、2000年にロフトワークを起業。
Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。
グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL(マテリアル)」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。

MITメディアラボ所長補佐、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員も務める。
森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任。
「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。

画像提供:PHOTO BY SUSUMU TOMIZAWA

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