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未来のヒント

社会課題を構造化して可視化していくこと~リディラバ代表 安部敏樹さんに聞く~

リディラバは社会課題を解決していくために、「社会の無関心を打破する」ことに取り組んでいる団体です。彼らは人々の社会課題に無関心であること、社会課題を知るルートが十分に確立していないことが大きな問題だと考えています。この問題を解決するために、まずはより多くの人に社会課題を知ってもらう取組を行っています。現在300を超える社会課題の現場との接点を持ち、人や企業・行政と現場をつないでいます。そんなリディラバの代表である安部さんに活動の内容、そして彼らの目指すことを伺いました。

現場へリーチできるネットワーク

安部さんは、社会課題には三つの壁があると言います。一つめは「知らない壁」、二つめは「アクセスできない壁」、三つめは「何をしたらいいかわからない壁」。これらの障壁をなくしていくことが彼らの目標であり、そのための事業を行っています。

リディラバの強みは、様々な社会課題の現場に出向いて情報を集めてきたことによる社会課題の現場へのアクセシビリティと、圧倒的な社会課題の情報を提供できるプラットフォームを作ってきたことです。この強みを活かして次の4つのビジネスを行っています。

1 B to C:「Ridilover Journal」という会員制ウェブ情報誌を発行しています。マスメディアの記者、企業の方、そして社会課題の当事者などが会員です。社会課題の現場の様子を知ることができる貴重な情報誌です。
2 B to B:企業向けの研修事業を行っています。企業の社員が社会課題の現場に実際に赴き、社会課題を解決するために何ができるかを考える研修です。プログラムを通して、現象の裏側にある本質的な課題を発見していく力を養います。
3 B to E:学生の教育プログラムとして、企業向けの研修と同様のプログラムを学校向けに提供しています。
4 B to G:行政が抱えている課題をより深く分析し、解決への糸口を探索することや、行政と企業や他の団体とのマッチングを行っています。

このように、社会課題に取り組む現場で動いているソーシャルセクターと企業や行政、学生などをつないでいくことが可能なプラットフォームを作り上げたことも、彼らの強みと言えるでしょう

幸せのかたちより不幸のかたち

安部さんは「幸せのかたち」より「不幸のかたち」に興味があるといいます。成長の時代は幸せのかたちがパターン化できた一方で、不幸のかたちは多様でした。しかし今はそれが逆転し、幸せのかたちが多様化している一方で、不幸のかたちがパターン化できる時代になりつつあります。リディラバは不幸をつくる要因を潰し、不幸に陥らないための仕組みを模索しています。そのために現場に足を運ぶのです。現場にこそ時代を読みとく鍵があるからです。

課題を設定する力を養う

今時代に求められていることはHOWでなくWHATとWHYだと言います。成長の時代には「どのように」という方法論を求め、それを手にすれば簡単に成果を手に入れていくことができました。しかし今は何が本当の課題なのか、そしてなぜそのことが必要なのか、そもそも何のためにそれをしなければいけないのか、そしてそれに対して自分の役割は何かというように「何を」「なぜ」ということが行動の動機になってきているようです。問題を解決するには問題の本質や、現象の裏側にある構造を見つけ出す必要があるのです。とはいえそれをすぐに見つけ出せるわけではありません。一つには本質や構造を見つけ出す課題発見力を身につける必要があります。またそれ以前に、多くの人はそもそも現場を見たことがないので、どういう課題があるのかを肌感覚で知らないのです。こうした人たちの能力開発や課題発見力を養うために、社会課題に取り組む団体の現場を使って学びのプログラムを作っています。

事業を推進する人を育てる

このプログラムは様々な能力開発につながるといいます。現場を見ることによって、主体的に課題を解こうとする熱意や複雑なステークホルダーとの合意形成力も鍛えられていきます。研修で現実の姿に驚き、時にはその課題の深さや既に行ってきた人の苦労に触れ、一旦は自信を無くす人もいるようです。しかしその気づきから自分のできることを探していくことで、人とのコミュニケーションのありかたも変わっていくそうです。特に若ければ若いほど劇的にそのリテラシーが変わっていくようです。また同期生が一緒に学び合うことによって、研修プログラムが終わっても定期的に集まり企業の垣根を越えて勇気付けあうことにも役立っています。はじめはこうして気持ちに火のついた若者が企業をやめてスピンアウトするのではないかという危惧もあったようですが、実際は問題の深さを知り、独立するより企業の中にいて企業の立場で、できることを探すという人の方が多く、現実的な着地を見出そうとしている人が大多数のようです。これらの研修は人材開発のために使われる場合もありますし、具体的な新規事業の着地のために使われることもあるようです。

現場に行かなければ見えない。会社の机の上では気づかない。

現場に行く大切さの事例として、一つの事例を話してくれました。ある企業が高齢者施設の人材採用のマッチングプラットフォームとそれらの事業に関するコンサルティング事業に踏み出す際、役員以下部長以上の数十名全員が高齢者施設の現場に通い続けました。ある日、チームの1人がだれもが羨むような立派な施設の入居者にインタビューを行いました。その人に楽しみにしていることは何かを聞いてみると、月に一度家に帰れることだとのことでした。話を聞いた人はそのことを聞いて愕然としたそうです。どんな立派な施設をつくっても一番楽しみなことは家に戻ること。家族と一緒に過ごすことが一番幸せな時間だというような入居者の心理に触れることで、自分たちのビジネスの作り方へ大きなヒントがあったそうです。会社の机の上で考えただけではこのようなことはわからないのです。

組織をつないで新たな事業をつくる

もう一つ、事例を話してくれました。これは「こども宅食」というサービスで、子供の貧困という社会課題に取り組んだ例です。フードロスに取り組んでいるあるNPOが、企業から賞味期限ギリギリのものを集め貧困家庭の子供へと渡していくということを試みていましたが、必要な人へリーチする仕組みがうまく作れませんでした。そこで運輸会社と行政を巻き込み、運輸会社の届ける仕組みと行政側での必要な人を発見する仕組みをNPOの仕組みに組み合わせたのです。企業はもちろん費用をもらって届けるのですから、その意味では通常の仕事と変わりませんが、社会的な意義のある仕事をしているという社員のモチベーションアップにつながったり、そうした場所に実際に行くことで、肌で感じる社会課題への認識も強まったりします。さらに企業の社会的価値向上にも大きく貢献します。このようにいくつかの組織をつないでいくことで新たなビジネスを作り出すということも彼らの強みと言えます。

社会課題というマーケット

日本の政府予算はGDPの30%近くが投入されています。その中で固定費ともいえるインフラ系のものに使われる額は70%、残りの30%は未来の産業をつくるために使われています。それは社会への投資とも言えるわけですが必ずしも未来のために有効に使われているとは限りません。本来ならば投資したものが未来の産業をつくりその効果が何倍何十倍にもなることが理想です。そのためには問題の本質を探る必要があるのです。先のフードロスの事例にように、貧困の問題を現象として捉えていたのではビジネスにはなりません。それが起きている原因を探り、新たな解決への仕組みを見つけ出すことでビジネスが生まれて行きます。近年企業はCSVへの取り組みについて力を入れたいと考えているものの、その出口が見つからないケースが多いといいます。出口を見つけていくには現場の実態とビジネスが生まれるマネタイズのポイントを探し出すことも必要です。その仕組みを発見することで社会課題の一つが解決していくわけです。

紹介した取り組みは、人材教育のような定型的な活動からクライアントごとが持つそれぞれの課題を解いていくようなものまで多種多様な広がりを持ちます。解決の方法は様々ですが、基本は常に現場を知る・観察する・構造を可視化する、この姿勢は一貫しています。時代は「まだら」に進化します。将来多くの場面で起きることが今どこかで既に発生していることは多いものです。それは社会課題の現場に見られることが多いのだそうです。その意味でも社会課題の現場に目を向けることが重要なのです。
また、企業に研修する立場の彼らですが、現場に通う彼ら自身が最もこうした能力を日々高めているとも言えます。問題を解決し新しいビジネスを作り出すには、現実の社会の課題に向き合い、まずはそこを見つめることからしか未来は作れないのでしょう。
新しい事業を生み出すこと、新しい視点をもつこと、事業を推進して成功させること、社会での役割を発見していくことなど、これらはどの企業でも抱えている共通の課題です。しかし、具体的にどのように向き合っていくのかの道筋が見つけられずに困っているのが現場です。今回の取材はそうした問題に解決への糸口を示してくれているようにも思います。
みなさんはどのように思いますか、みなさんのご意見をお寄せください。

プロフィール

安部敏樹(あべとしき)
1987年生まれ、大学在学中に社会問題の現場を学ぶ現在の「リデイラバ」を設立。
大学では複雑系を研究し現在も東京大学博士課程に在籍。24歳史上最年少で東大教養学部の授業を担当し人気講義になる。2014年より教員向けの講義も受け持つようになる。

画像提供:PHOTO BY MIKI CHISHAKI

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