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未来のヒント

食卓まわりの「もの」について~プロダクトデザイナー角田陽太さんの取材をとおして~

骨董市とプロダクト

骨董市で買い求めた食器

角田さんは骨董市や古道具店に行くのがとても好きだと言います。それは長い時間の中で生き続けた「もの」の良さを発見する喜びなのです。世の中にゼロから生まれるデザインというのはなく、あらゆるものには既によい先例があるのだと。古い物には長い時間人々に選び抜かれてきた生命力があるのです。社会の中で勝ち残ってきたものにはその力があります。使い勝手もよくそしてデザインもいいもの、生き抜いてきた美しい「もの」を発見する喜びが骨董市や古道具店にはあるのでしょう。

カイ・フランクがデザインしたカトラリー

そうして集めた「もの」は栓抜きや、ガラスのコップ、お皿など。古い物を集めるのは喜びでもあり、同時にプロダクトデザインの源になるのです。そんなコレクションの中からフィンランドのカイ・フランクがデザインした古いカトラリー類を見せてくれました。このカトラリーがとても好きだといいます。気取らず、使い勝手もよく、そして多くの人に長く愛されてきたカトラリーです。こうした気にいったものを目にしながら、大きさや長さ、厚みや太さなどを調べて、自身のデザインに応用していくのだそうです。

昔からずっとそこにあったような日常のデザイン

角田さんが手がけたブランド「Common」

角田さんが最近手がけた仕事について紹介してくれました。ある陶磁器メーカーが始めた新ブランド「Common」の商品開発です。出来上がった商品を手にしながら「あたかも昔からそこにあったかのようなテーブルウェアをつくりたかった。フォーマルな物ではなく日常の暮らしの中で使い続ける物をつくりたかった」と語ってくれました。日常使う物なので、割れにくい事、扱いが楽な事。さらには値段を買いやすい価格にすることも大切だと。そのために例えばカトラリーは同じ厚みの板からつくることや、工程を工夫し価格を安くする努力もしているそうです。「高いプロダクトで質がよいのは当たり前。手頃な値段でも、どうデザインの質を上げていくのかが大事」そう角田さんは言います。そして安くていいものをつくることでより多くの人に使ってもらいたい、美しいものを使う事で日常のくらしの質をもっとあげていければと考えているようです。

今は何でも便利な方向へと流れやすい社会です。しかしたとえお惣菜を買ってきたとしても、器に移しかえて食事をするような気持ちの豊かさが必要だといいます。テーブルウェアを整えて食事をする、そんな日常の行為が、くらしの質をあげていくのです。上質とはどんなくらしかという質問に、角田さんは「理屈ではないなにか、それは気持ちの豊かさだ」といいます。「特別な日ではなく、日常が大切」なのだと。豊かさとは、日々の小さなくらしの質の蓄積なのかもしれません。毎日使う食器こそ、デザインの質をあげることが求められているのでしょう。デザインが人々の行動を変えていく、そうしたくらしへの問いかけが角田さんのプロダクトには込められているようです。

角田さんのくらし

波佐見焼の通い箱を雑誌入れに活用

角田さん自身のくらしぶりにも、そのこだわりは随所に見られます。コンパクトなアパートの部屋は整然と片付けられ、置かれているあらゆるものにこだわりがあります。古いアパートをリノベーションした部屋は、様々な部材を骨董市などで集めてつくっています。ドアも気に入った古いもののサイズを直し、ドアノブや蝶番も一つずつ探して取り付けています。トイレはTOTOの前身である東洋陶器のビンテージ物を探してきて取り付けています。床も壁も真っ白な光沢のあるタイルを敷き詰めています。

部屋の照明は20ワットの裸電球。生産が中止された東芝の20ワットの裸電球をストックしているそうです。暗くないかとの質問に「案外十分な物です。最近では10ワットに変えました」。ほのかな光に包まれる部屋の中で音楽を聴いたりお酒を飲んだり、自分の集めたもの、つくったものに囲まれた時間を楽しんでいるようです。

レコードのコレクション

寝室の一角には大量のレコードのコレクションもありました。コレクションは増えていきやすいものですが、角田さんは今の状態の量を増やさないと言います。部屋の大きさに対して許容できるものの量を決めており、多くなったらオークションで売りながら物の量を一定に保っているのです。角田さんの部屋にある、音楽や食事、物、空間、すべてに意味があります。そこには何一つ、無造作に選ばれた物はないように見えます。

多い事が豊かではない。楽な事が自由ではない。

コレクションのひとつである水差しとグラス

角田さんの話やくらしぶりは、ものの量が多い事が豊かではないということ、少ないこと、減らしていく事がかえって豊かなのだということを気付かせてくれます。くらしを律する事は、不自由なのでなく、かえって自由になれるのかもしれません。ルーズにすれば、楽になるのではなく、くらしが乱れてしまうのです。またものを減らしてしていく時にこそ、その本質が見えてくるのかもしれません。選び抜いていくことで、大事な物がわかります。欲望にまかせて行動しがちな人間の習性に、あえて自分を律していくことで、くらしの豊かさが手に入るということを教えてくれました。

今回の取材を通して、くらしから物づくりまですべてが一貫してつながっていることを見たような気がします。デザイナーとしてのものの見方は、くらし方そのものと一致しているのでしょう。

プロフィール

角田陽太(かくだ ようた)
2003年にロンドンのデザイン事務所を渡り歩き、その後ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に入学、2008年帰国後無印良品のデザイナーを経て、2011年に独立。現在に至る。
主な作品:テーブルウェア「Common」、時計「Clock A」など。静かなデザインは国内外で高く評価されている。

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