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のどに刺激を与える消炎成分を
オリーブオイルから発見 Gary K. Beauchamp

モネル化学感覚研究所(以下、モネル研)はNPO団体なので、国からの予算のほかに、共同研究プロジェクトの実施などを通じてスポンサー企業から資金提供を受け、研究活動を行っています。その中から、大きな発見や研究成果が生まれることもあります。その一例を、モネル研のギャリー・ビーチャム所長がご紹介します。

風邪薬の味に対する苦情が、研究のきっかけに

スポンサー企業からの相談をきっかけに研究テーマが生まれ、風味に関する生物学の根幹に迫る洞察がもたらされた例のうち、特にドラマティックな展開となったのが、オレオカンタール(Oleocanthal)という、特殊な知覚特性を持つ抗炎症化合物の発見でした。
発端は約10年前、イギリスに本社のあるレキットベンキーザー(RB)社から相談をもちかけられたことでした。同社が市販している風邪薬の味に対して苦情が多く寄せられているが、理由がわからないというのです。その風邪薬は液状で、従来のものに非ステロイド系消炎鎮痛成分のイブプロフェンを加えて新しく発売されたばかりでした。そのため、苦情にはイブプロフェンの知覚特性が関係しているに違いないと推測したのですが、当時、イブプロフェンの知覚特性はほとんど知られていませんでした。

のどだけに刺激を与えるイブプロフェンの謎

モネル研は通常、基礎研究につながるものでない限り、特定の商品を研究で取り上げることはしません。しかし、この相談には非常に興味をそそられ、風邪薬の「味見」を承諾しました。口にしたとたん、問題は味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)ではないことがすぐに分かりました。イブプロフェンが、のどにピリピリする刺激を与えるのです。そして、不快感は明らかに、のどの周辺に限定されていました。
唐辛子に含まれるカプサイシンをはじめ、ほとんどの刺激成分は、摂取すると口腔内の全体に刺激を感じます。しかしイブプロフェンは、のどだけに作用しました。それがなぜなのか、メカニズムに見当がつきません。ひょっとしたら、口の中にはなく、のどだけに存在する未知の受容体があって、イブプロフェンはその受容体を活性化するのではないか? 私たちは、とても興味を持ちました。
こうしてRB社との共同研究が始まり、最終的に、プロジェクトメンバーのポール・ブレスリンとバリー・グリーンが、「刺激はのどの狭い範囲に限定され、それがpHへの高い感受性を示しており、それに基づいて、不快感を軽減するための方法をRB社に提示した」という内容の論文を発表したのですが、私たちは、この特殊なピリピリ感がのどだけに起きる理由についてはまだ納得がいかず、機会があればメカニズムを解明したいと願い続けていました。

極上のオリーブオイルでも同じピリピリ感が

同じ頃、私はたまたまイタリアで「分子料理法」の会合に出席する機会を得ました。科学者、シェフ、ジャーナリストが集い、料理や食物の選択に関する科学的根拠を探求しようという試みだったのですが、このとき、エクストラバージン・オリーブオイルのテイスティングをしたのです。ワインのテイスティングと同様に、少量のオイルを注いだワイングラスを持ち、そこから漂う揮発性物質の香りをかぎ、少しだけ口に含んでから飲み込みます。こうして、地元のオリーブ畑から収穫したばかりの極上のエクストラバージン・オリーブオイルを飲んだのですが、そのとたんに驚きました。液体のイブプロフェンを飲み込んだ時とそっくりの、のどが焼け付くようなピリピリした刺激を感じたからです。

オリーブオイルにも、イブプロフェンのような薬効が含まれる?

このとき、「高品質のエクストラバージン・オリーブオイルには、イブプロフェンに似た知覚特性だけでなく、同様の薬効を持つ成分が含まれているのではないか」という仮説がひらめきました。根拠は、精神薬理学者のローランド・フィッシャーが50年以上前に発表した、「口腔は薬理学的センサーの役割を果たしており、香りへの感受性と薬剤への感受性は強く結びついている可能性がある」という仮説です。
もしもエクストラバージン・オリーブオイルに天然の消炎成分が含まれているなら、地中海料理が体にいいのは、オリーブオイルを使った料理で日常的に少量の消炎成分を摂取するからなのかもしれません。地中海料理は、心疾患、一部のがん、アルツハイマーなどの神経変性疾患の発生率を抑えるといわれています。すでに、イブプロフェンの長期的摂取がこうした疾患に効果を発揮するといういくつかの証拠が明らかになっているので、地中海料理に同様の成分が含まれているとすれば、つじつまが合います。

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