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特定のにおいだけを感じない「特異的無嗅覚症」 Charles J. Wysocki

今回のテーマは、嗅覚の個人差です。身近なレストランでの食事風景を例に、感覚の意外な盲点をご紹介します。モネル化学感覚研究所のチャールズ・ワイサキ教授に書いていただきました。

特異的無嗅覚症とは?

特定の色に対する感覚が弱い色覚異常があるように、嗅覚にも、他のにおいに対しては通常の嗅覚がありながら、特定のにおいだけを感じない(または感度が低い)感覚的な「死角」が存在します。このことを、専門用語で「特異的無嗅覚症(Spesific Anosmia)」といいます。
特異的無嗅覚症は、本人が自覚していない場合もあります。食べ物や飲み物の味や香りを、大多数の人に魅力的に感じさせる重要な化学物質があるとします。その物質の香りを知覚できない人は、なぜ他の人が「おいしい」と絶賛しているのか理解できないでしょう。また、飲食物が変質したときの悪臭を知覚できなければ、他の人が決して食べないような食品を口にしてしまうかもしれません。実際、悪臭に対して無嗅覚の人が、傷んだ食品を極上の味だと感じてしまうケースもあるのです。
感覚検査が普及したことで、今では、好ましい香りだけでなく、悪臭に対しても特異的無嗅覚症のあることが発見されています。製品の味や香りを検査する担当者が主要化合物に対して無嗅覚症ではないか、食品・飲料メーカーは確認しておく必要があります。消費者にも、特異的無嗅覚症の存在と有病率についての情報が知らされるべきでしょう。

あるレストランでの出来事

あなたが住む町に、料理評論家の絶賛するアジア風フレンチレストラン「オイシーナ(OISHIINA)」が開店したとします。あなたはその店で、大勢の友人と一緒にディナーを楽しむことにしました。期待を膨らませて席につくと、開店特別サービスとしてシェフの新作料理が運ばれてきました。香味の効いたシーフードにポークとマッシュルームを添えた前菜です。あなたは一口食べて、その素晴らしい味に感動を覚えました。ところが、一口食べただけでそれ以上口を付けようとしない人が何人かいます。どうしたのかと尋ねると、グループの中にいた自意識の強い詩人がこう言うのです。「いやな尿のにおいがする」と。それを聞いて、店にいたほとんどの客が凍りつきました。同じように料理を気に入らなかった数人を除いて──。

トリュフに含まれていたアンドロステノンのにおい

しばらく問答が続いたあと、この詩人は、料理に使われていたマッシュルームのようなきのこがフランス産トリュフであることを知り、大学時代に心理学の授業で感覚について学んだことを思い出しました。トリュフにはアンドロステノンという物質が含まれており、アンドロステノンに対する嗅覚能力は個人差が非常に大きいのです。多くの人はアンドロステノンに対して特異的無嗅覚症があり、においを感じ取ることができませんが、感じることのできる人は、アンドロステノンのにおいを「樹木や花のような香り」と形容します。さらに感受性の強い人は、ごく微量でもアンドロステノンを知覚し、「いやな尿のにおいがする」と言います。これが、シェフの贈り物に対する反応に大きな差が生じた理由だったのです。

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