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遊休荒廃地を垣根栽培・草生栽培のブドウ畑にすることが生態系を豊かにすることを確かめる長期的なヴィンヤードの生態系調査を継続しています

  • 環境

2020年01月21日

  • 遊休荒廃地を垣根栽培・草生栽培のブドウ畑にすることが生態系を豊かにすることを確かめる長期的なヴィンヤードの生態系調査を継続しています

キリングループでは、2014年から長野県上田市の陣場台地にある椀子ヴィンヤードで農研機構・農業環境変動研究センターに依頼して生態系調査を行い、昆虫168種、植物288種を確認し、たくさんの絶滅危惧種※1を発見しています。
椀子ヴィンヤードでは、垣根栽培を行っており、地面は牧草や在来種のイネ科植物でおおわれています。年に数度行う下草刈りにより、草原性の在来種や希少種にも陽が当たることになり、ブドウ畑の草原の中で生育することが可能になると考えています。
しかし、椀子ヴィンヤードはすでに開園から15年以上たっており、完成したヴィンヤードの状態からしか推測できません。
そこで、農研機構との共同研究で、天狗沢ヴィンヤードにおいて遊休荒廃地からヴィンヤードに移り変わる過程を2016年から継続的に調査しています。

  • 天狗沢 2016年(開墾前)

  • 天狗沢 2017年

  • 天狗沢 2018年

  • 天狗沢 2019年

山梨県甲州市塩山上小田原地区のシャトー・メルシャン自社管理畑である天狗沢ヴィンヤードは、長く遊休荒廃地であった場所を2017年に開園したブドウ畑です。
2016年には、開墾前の遊休荒廃地の状態で調査を実施しました。
その結果、昆虫も植物も極めて少数しか生息していないことが確かめられました。日本の環境では遊休荒廃地も10年以上経過すると雑木林などに変移していくのが一般的なのに天狗沢の生態系が乏しい原因は、鹿の食害であると推測されます。わずかに残った植物の大半が鹿の食べないオニシバであったからです。天狗沢ヴィンヤードのある周辺にはたくさんの鹿が生息しており、出てくる植物の芽を食べつくしている状況であったと考えられます。
その後、2017年には遊休荒廃地が開墾され、周囲に電気柵が設けられました。
2017年の調査では、ヴィンヤードは一年草で覆いつくされましたが、2018年には多年草が入り始めていました。そして、2019年の調査で、一気にヴィンヤードらしい生態系の豊かな光景になってきました。
昆虫の調査では蝶を指標として使っていますが、2018年には13種だったものが、2019年には16種までに一気に増えました。
ヴィンヤードは植樹も終わってブドウの木も大きくなり始めていますが、まだまだ椀子ヴィンヤードなどに比べると初期段階といえます。今後も数年に渡って継続して調査を行い、遊休荒廃地を垣根栽培・草生栽培のブドウ畑にしていくことが、生態系を豊かにするという仮説の検証を進めていきます。

  • 城の平ヴィンヤード

  • キキョウ

  • ギンラン

  • メハジキ

今年は近くにある城の平ヴィンヤードでも春と秋に詳細な調査を行いました。
その結果、国レベルのレッドデータブック※2で絶滅危惧種Ⅱ類に分類されるギンランや準絶滅危惧(NT)であるメハジキやキキョウが見つかっています。メハジキは群生で見つかり、キキョウは畑の中に広範囲に数十の単位で見つかっています。
城の平ヴィンヤードは、シャトー・メルシャンで最初に垣根栽培・草生栽培に挑戦したブドウ畑で、開墾から30年以上が経っています。比較的小さなブドウ畑ということもあり、丁寧な草刈りを行っており、今年も新しく開墾した部分の斜面の草刈りを行ったところ、キキョウが現れ花を咲かせました。垣根栽培・草生栽培を丁寧に続けたブドウ畑の最終形が城の平ヴィンヤードとも言えそうです。

  • 椀子ヴィンヤード

  • ユウスゲ(キスゲ)

  • メハジキ

  • スズサイコ

  • ウラギンスジヒョウモン

  • ベニモンマダラ

  • クララ

  • クララ挿し穂取り

  • クララ挿し木

一方で、最初に調査を開始し現在では従業員参加の植生再生活動を行っている椀子ヴィンヤードでは、今年新しい挑戦を行っています。夏前に国際NGOアースウォッチ・ジャパンとそのボランティアの人たちと、クララの挿し穂取りを行いました。クララは国レベルの希少種ではありませんが、絶滅危惧ⅠA類(CR)の蝶であるオオルリシジミの唯一の食草です。これを挿し木で増やそうとしています。ボランティアの皆さんが各自でクララの挿し穂を自宅に持ち帰り、1年間育てて2020年の春には椀子ヴィンヤードに植える予定です。初めての経験とあって沢山の失敗もしていますが、数十株が育ちつつあります。
さらに、今年からは草生栽培がブドウそのものに与える影響についても調査するために、畑の中のクモや土壌生物、鳥などの予備調査も開始しました。
今後も、遊休荒廃地を垣根栽培・草生栽培のブドウ畑にしていくことが生態系を豊かにしていくという仮説を確認し、より生態系豊かなブドウ畑にしていくために、学術的に取り組みを進めていきます。

  • 土壌生物調査

  • クモ調査

  • 鳥調査

  1. 絶滅危惧種:ウラギンスジヒョウモンは環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(長野県の準絶滅危惧種)、ベニモンマダラは環境省と長野県のレッドリストで準絶滅危惧種。メハジキ、ユウスゲ(キスゲ)は長野県のレッドリストで準絶滅危惧種、スズサイコは環境省ならびに長野県のレッドリストで準絶滅危惧種。クララは環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠA類(長野県の絶滅危惧ⅠB類)であるオオルリシジミの唯一の食草。
  2. レッドデータブック:環境省が作成・改訂した絶滅のおそれがある動植物のリスト(レッドリスト)に基づき、より具体的な内容を記載したデータブックのこと。下記で検索が可能。
    http://jpnrdb.com/
    また、レッドリストのカテゴリーについては下記で説明されています。
    https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/redlist/rank.html

※所属(内容)は掲載当時のものになります。

価値創造モデル

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