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研究・技術開発成果

30年に及ぶ研究の集大成。DLCコーティングでバリア(遮断)性を高めたPETボトルの開発と実用化

研究・技術開発レポート

キリンは、綜合飲料メーカーでありながら、包装容器やコーティング技術も自社で開発している数少ない企業です。拠点であるパッケージング技術研究所が開発した数々の技術は社外にも展開され、世界へと広がる可能性のあるものも少なくありません。その一つが、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティングによって気体の透過をバリア(遮断)するPETボトルの開発です。この特許技術はいかにして生まれたのでしょうか。1980年代から続く開発の歴史と、DLCコーティング技術の優れた特徴をご紹介します。

拠点であるパッケージング技術研究所が開発した数々の技術は社外にも展開され、世界へと広がる可能性のあるものも少なくありません。その一つが、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティングによって気体の透過をバリア(遮断)するPETボトルの開発です。この特許技術はいかにして生まれたのでしょうか。1980年代から続く開発の歴史と、DLCコーティング技術の優れた特徴をご紹介します。

PETボトルの課題を解決し、注目される次世代ボトル

中身の劣化を防ぎ、製造したときの味や香り、品質を長く保てるようにするために、容器の研究開発は重要です。PETボトルは軽くて割れず、形状の自由度が高いといった利便性から急速に需要が伸び、いまや国内の清涼飲料容器の7割を占めるというデータもあります。しかし、缶やびんに比べて酸素や炭酸ガスなどを透過しやすく、特に軽量化した容器では中身の品質保持が課題となります。環境負荷低減に向けて容器の軽量化が進むなか、キリンはこの課題解決に長年にわたり取り組んできました。

酸素や二酸化炭素、水蒸気などの気体の透過は、中身の品質に多大な影響を及ぼします。こうした気体の透過を遮断する機能をバリア(遮断)性といい、さまざまな研究が行われています。キリンが開発したDLCコーティングは、図1のとおり、PETボトルの内側に炭素の薄膜を形成する技術です。厚さ10~40nm(ナノメートル)の緻密な膜が酸素や二酸化炭素などの小さな分子に高いバリア性を発揮します。下の図2のとおり、酸素、二酸化炭素(炭酸ガス)、アロマ(香気成分)をほとんど遮断することができます。また、DLCは非常に薄い膜であることから、ボトルをそのままリサイクル可能という特徴もあり、次世代のPETボトルの技術として大きく注目されています。

  • 図1 DLCコーティングの特徴

    ①PETボトルの外側からの酸素の侵入を遮断②内側からの気抜け(二酸化炭素の損失)や水分の蒸散を遮断③内側からのアロマ(香気成分)の吸着や散逸を遮断という大きな特徴があります。非常に薄い膜でできているためリサイクル性が高く、ボトルからボトルへのリサイクルができることも利点です。

  • 図2 DLCコーティングのガスバリア性

    DLCコーティングしたPETボトルは、コーティングしていないPETボトルに比べて、酸素の透過率を90%以上、二酸化炭素(炭酸ガス)の透過率を80%以上遮断することができます。

DLCコーティングとは

DLCは、安定かつ不活性な材料で、ダイヤモンドとグラファイト(炭素でできている層状の物質)の中間的な構造をもっています。DLCは、もとは金属部品の表面の硬度を高めたり、磨耗を防いだりと、さまざまな業界で広く使われていました。

そのDLCをPETボトルのガスバリアに応用したのがキリンです。DLCの組成は用途によってさまざまですが、キリンが開発したDLCコーティングは、炭素と水素の元素比がおよそ7:3です。このような組成にすることで樹脂容器の変形に追従できる高い柔軟性と高いバリア性を兼ね備えることができます。

DLCコーティングは下の図3のように行います。PETボトルの内部を真空状態にしてプラズマを発生させ、薄い炭素膜を容器の内面に均一に形成させます。このような装置を機械メーカーと共同で改良を重ねてきました。

並べてみると、色の違いがわかります。通常のPETボトルは透明ですが、DLCコーティングの膜は薄い茶色。左はワイン用、右はビール用のPETボトルです。

図3 キリンが開発したDLCコーティングの方法

真空チャンバー(真空の環境をつくる金属製の容器)にPETボトルを入れ、内部を真空状態にします。次に、成膜するための原料ガス(炭化水素)を入れます。外部電極に高周波電力を印加する(電圧を加える)と、炭化水素がプラズマ状態となり、PETボトルの内側に緻密なDLC膜が形成されます。

1980年代の「容器戦争」を機に、世界を驚かせる技術開発を目指す

キリンがDLCコーティングの開発に着手したのは30年近く前のことです。1980年代、ビール業界では各社工夫を凝らした独特な容器が次々に登場し、「容器戦争」が巻き起こっていました。そのなかで、キリンは「物真似でないもの」「世界があっと驚くもの」「オンリーワン技術」の3点をコンセプトに次世代技術開発に着手しました。そのとき着目したのが、他の業界で使われていたDLCコーティングだったのです。

他の業界のDLCは、硬い金属に長い時間をかけてコーティングしていくものです。薄いPETボトルに短時間でコーティングするという発想は、業界の常識を超えるものでした。先入観をもたずに挑戦できるよう、開発の主担当には新入社員が任命され、DLCにガスバリア性があるかを確認するところからスタート。予想どおり高いバリア性があることがわかり、現在につながる技術開発が本格化していきました。

量産化に成功し、さまざまな商品に展開

飲料向けのDLCコーティングのPETボトルは、2004年にキリンビバレッジ社の加温販売用の「生茶」「午後の紅茶」に採用され、以降、炭酸飲料や食用油、調味料などにも使われるようになり、世の中に広がっていきます。特に2010年にメルシャンが発売したPETボトル入りのワインは大きな話題になり、清酒や梅酒へも展開しました。

2016年、家庭用サーバー専用「キリンホームタップ」のビールの容器を世に出すに至ります。2017年には業務用サーバー専用「タップ・マルシェ」のビール容器にも採用され、今では3リットル以上の大型容器にもコーティングできるまでに装置改良が進んでいます。

研究所にあるDLCコーティングの実験機。PETボトルをセットして膜を生成させます。

自社開発ならではのメリットを生かして

こうして、品質保持が難しいビールのPETボトル化を実現したことは、まさに世界をアッと驚かせる成果となりました。通常のPETボトルでは酸素の透過によりビールが劣化してしまい、短い期間しか品質を保てませんが、DLCコーティングのPETボトルを使用すると、6カ月たっても品質を保てるものもあるのです。

今後は、軽量化による樹脂使用量や輸送エネルギーの削減、賞味期限の大幅延長によるフードロスの削減につながる技術としての活用が期待されます。ビールやワイン、清涼飲料のみならず、食品や医薬品など、幅広い分野でDLCコーティングの樹脂容器が使用される可能性もあります。

この成果には、「自社内で容器開発ができる」というメリットが大きく寄与しています。お客様にいちばん近いメーカーだからこそ、社会が必要とする技術をいち早く察し、中身の性質や市場での取り扱いに配慮した容器を開発できるのです。
このような利点を生かして、パッケージング技術研究所は、今後も社会に貢献し、世界を驚かせる技術開発に取り組んでいきます。

研究担当者からひとこと

本村考平(もとむら・こうへい)

キリン(株)R&D本部 パッケージング技術研究所
機能材料グループ 研究員

DLCコーティング技術の研究開発は、私が生まれる前から先輩方の手で進められてきたものです。私はその研究開発を受け継いでいますが、自分たちの手で開発した技術が世に出て、多くの人に使ってもらえることが醍醐味です。注目度の高さを肌で感じ、この技術をもっと広げていきたいと意欲に燃えています。私自身は、学生時代に再生医療系の研究をしていたので、入社後、パッケージングの技術開発を手がけることになるとは思ってもいませんでした。しかし、やってみると非常に面白い。自分の可能性を会社に広げてもらったと思います。コーティング技術をさらに追求するとともに、自分自身の可能性をさらに広げたい。そして、世の中にないもの、世の中の役に立つものをつくりだしていきたいです。

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