こうした研究実績から、次第に、新商品開発においてもホップに焦点が当てられるようになりました。村上主任研究員は、商品開発研究所と協働し、ホップの使用技術を磨き上げるための実験や、試験醸造を繰り返しました。香味の安定化に向けて化学分析にも力を注ぎ、商品開発や工場での生産をサポート。現在も、全工場のほぼすべてのビールを化学分析し、安定した品質管理を支えています。
「一番搾り とれたてホップ」や「グランドキリン」といった、ホップの魅力を前面に打ち出した新商品づくりに取り組んだのもこの頃です。
「『一番搾り とれたてホップ』が生まれたのは、『生のホップでビールをつくってみてよ』という先輩のさりげない一言がきっかけです。青臭くて飲めたものではないだろうと思いましたが、誰も試したことのない製法なので興味がわき、1リットルだけ試作してみたのです。恐る恐る飲むと、鮮烈な香りとさわやかな味が口中に広がり、なんと香り豊かなビールなんだろう! と感動しました。先入観にとらわれずにやってみること、すぐに試せる実験力を備えておくことは本当に大切ですね」
「ディップホップ」という新製法を用いた「グランドキリン」にも開発秘話があります。きっかけになったのは、ホップの使用方法を試行錯誤していた若い研究員から、「すごいビールができてしまったのですが、どうしてこんな味と香りになったのか分かりません」と相談されたことでした。村上主任研究員には、すぐに科学的根拠が思い当たりました。ホップの性質や香味のメカニズムを熟知していたからです。実際に、実験で実証することができました。そこから新製法が生まれ、これまでにない味と香りのビールを世に送り出すことができたのです。