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白ワインの柑橘香強化技術と、冷やしても常温でもおいしい赤ワインのブレンド技術を開発し、商品化に成功!
~「メルシャン エブリィ」(赤・白)~

研究・技術開発インタビュー

日本人の繊細な味覚や嗜好にあう、「うまい!」と言っていただけるワインをつくりたい。デイリーワインをもっともっと日常的に楽しめる飲み物にしたい。そんな思いで研究に取り組む2人の若手研究者が、これまでにない香りと味わいを引き出したワインを開発し、「メルシャン エブリィ」(赤・白)として商品化を実現しました。赤ワインと白ワイン、それぞれの技術と商品化への道のりをご紹介します。

高瀬秀樹(たかせ・ひでき)
メルシャン(株)商品開発研究所 研究員 ワインアドバイザー

東北大学大学院修了(応用生命科学専攻)。2005年に入社以来、ワインとブドウの基礎・応用研究および商品開発を担当。近年は、海外でのブドウ果汁開発やワイン醸造開発を中心に、ブドウに潜在的に含まれる香りをより引き出すための製造プロセスを研究している。

占部恵理(うらべ・えり)
メルシャン(株)商品開発研究所 研究員

東京農工大学大学院修了(生物システム応用科学専攻)。2005年に入社後、メルシャンおよび出向先のキリンビールで焼酎の技術開発と商品開発に従事。2010年よりワインの技術開発と商品開発を担当。ワインと食との相性、お客様の嗜好など、コト提案のための検討にも力を入れる。

※2016年1月にR&D本部ワイン技術研究所を新設、メルシャン社商品開発研究所をキリン社R&D本部に機能統合しました。

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グレープフルーツのような、白ワインの柑橘香の秘密

香りや味わいを自らの感覚で確かめる

白ワインを担当したのは、入社8年目の高瀬秀樹研究員です。大学院時代から、微生物の能力を生かして植物に潜在するものを引き出すことに興味があり、酵母を使ってブドウを発酵させるワイン醸造の研究開発を志し、メルシャンに入社しました。ちょうどその頃、メルシャンの商品開発研究所では、白ワインの柑橘香を引き出す研究が進められていました。

柑橘香とは、グレープフルーツのような爽やかな香りで、ソーヴィニヨン・ブランというブドウ品種で醸造された白ワインに特徴的な香りの一つです。この香りは、1998年に同種のブドウで醸造されたワインの中で発見された3MH(3-メルカプトヘキサン-1-オール)という物質によるもので(*1)、ワインの中では香る状態で存在しますが、ブドウの果実や果汁の中では香らない3MH前駆体(いわば、柑橘香のもと)として存在しています(*2)。この3MHを引き出すためのブドウ栽培技術やワイン醸造技術が世界各地の研究機関で研究されており、メルシャン商品開発研究所でも、日本の土着品種である甲州ブドウを使って、この研究に取り組んでいました。

  • *1 Tominaga T. et al., Flavour Fragrance J. 1998, 13, 159-162.
  • *2 Tominaga T. et al., J. Agric. Food Chem. 1998, 46, 5215-5219, Peyrot des Gachons C. et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 4076-4079, Capone DL. et al., J. Agric. Food Chem, 2011, 59, 11204-11210

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独自の柑橘香強化技術は、偶然の発見から

最新鋭の機器を駆使し、香りの成分を分析していく

そんな中、2007年に大きな出来事がありました。別の研究のために、高瀬研究員が試験的につくった白ワインが、これまでになく強い柑橘香を放ったのです。

「偶然の発見でしたが、それはものすごい香りで、このワインは何だ!? と研究所中が沸き立つほどでした。調べてみると、通常では考えられない量の3MHが含まれていたのです。なぜ、こんな現象が起きたのか、メカニズムを解明して技術を確立すれば、これまでにないワインを世に送り出すことができると奮い立ちました」

これまでの研究で蓄積された知見をもとに、先輩研究員のアドバイスを受けながら、謎を解明するための研究が始まりました。その結果、柑橘香のもととなる3MH前駆体は、ブドウの果皮に多く含まれていることを改めて確認し(*3)、ブドウの果皮から効率的に3MH前駆体を引き出す方法を考案。それを受けて、果皮の成分を多く含む濃縮果汁をつくる技術の開発に成功。その果汁を乳酸菌と酵母で発酵させることで、3MHを多く含むワイン原酒を低コストでつくる技術も発明しました。これらは、国際特許出願中です。

  • *3 Murat M.L. et al., J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 5412-5417

研究成果のポイントと、柑橘香の強さの比較

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世界を飛び回り、南米で商品化に奮闘

南米での収穫風景

これらの技術をつくり上げた高瀬研究員の次の大きな仕事は、商品化への道を確実なものとすることでした。

「国産ブドウの栽培面積は限られています。柑橘香を引き出すためには、高度な栽培・醸造技術が必要となります。このため、豊かな柑橘香を有するワインの生産数量には限りがあります。私たちは、お客様に日常的に飲んでいただくために、いつでも・お手ごろな価格で・豊かな柑橘香をもつワインをつくりたかったのです。そこで、豊富にブドウが栽培される海外で、原料となる3MH前駆体を強化したブドウ濃縮果汁を生産し、国内の工場で発酵させてワインを醸造するという製造工程を考えました」

このプロセスを成功させるには、海外におけるパートナー選びが重要です。柑橘香のもととなる3MH前駆体を多く含むブドウを栽培し、供給できるかどうか、濃縮果汁を製造するための設備、品質管理体制などを厳しくチェックしなければなりません。高瀬研究員は、2009年に海外に飛び、南米やアメリカのサプライヤーを視察。その結果、契約したのは南米のサプライヤーでした。それから毎年、ブドウの収穫時期である2月中旬~6月中旬のうち約2カ月間は現地に滞在し、収穫や果汁製造に立ち会うとともに、製造設備の設計やチェック、品質管理など全般的な指導に当たっています。

南米のブドウ畑で

「ブドウが収穫できるのは年に1度だけですから、とても神経を使います。失敗したら、次の年まで待たなければなりませんから。ブドウに眠る柑橘香のポテンシャルを最大限引き出すには、収穫時期のタイミングやブドウを加工する方法など、細かな条件があるのです。海外での仕事は、文化や考え方の違い、コミュニケーションギャップなど困難も多いですが、失敗もしながら試験醸造を重ねる中で、現地の方々との信頼や理解が深まりました」

メルシャン商品開発研究所には、若い研究者を積極的に海外に送り出し、仕事を任せる風土があります。

「今回の取り組みは社内からの期待も高く、必ず成功させなければならないというプレッシャーの中、試行錯誤しながらやり遂げることができました。商品として世に送り出した今、お客様に喜んでいただいていることが調査結果から分かり、ただただ嬉しい! の一言です。これからも、より多くのお客様に飲んでいただけるよう、さらなる技術開発に取り組みます」と笑顔で語る高瀬研究員です。

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調査で分かった、赤ワインを冷蔵庫で保管する人の多さ

味わいや香りだけでなく、わずかな色の違いも見逃さない

続いて、赤ワインを担当した占部恵理研究員をご紹介します。大学院で微生物による物質変換を研究していた彼女は、発酵に関わる仕事を希望し、2005年に入社。高瀬研究員と同期入社です。

「私の場合、焼酎の技術開発と商品開発に5年間携わった後、ワインの技術開発と商品開発を担当することになりました。ちょうど、高瀬研究員が特許技術を開発し海外での製造を開始した頃で、商品化を目指して一緒に取り組むいい機会だなと思いました」

占部研究員が取り組んだテーマは、冷やしても常温でもおいしく飲める、香りと味わいの赤ワインを開発するために、必要な要素技術を明らかにしていくこと。赤ワインといえば、常温で飲むものだというイメージが強くありますが、なぜ、冷やす飲み方に着目したのでしょう。

「2010年に商品開発研究所が行った調査で、市販価格1000円以下の赤ワインは、冷やしてからお飲みになるお客様が非常に多いことが分かりました。赤ワインを保管するとき、冷蔵庫に入れている人が私たちの予想以上に多かったのです。この結果から、冷やして飲んだときにもおいしい味わいとは何かを強く意識するようになりました」

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黄金のブレンドを求めて、ポリフェノール、タンニン、糖に注目

赤ワインのブレンド試作作業

赤ワインの香りは、白ワインのように物質として特定される特徴香は少なく、その複雑さやバランスにより成り立っているとされています。今回開発した「メルシャン エブリィ」(赤)では、チェリーやベリーのような赤い果実の香りが特徴です。

どうすればこの香りを最大限に引き出せるか、さまざまな実験を行う中で、占部研究員が気づいたのが「甘さ」でした。単純な物理的性質ですが、赤ワインの甘さを抑えていくと、香りを複雑に感じられることを改めて確認することができたのです。

「この抑えた甘さとワインらしい味わいに寄与する渋みのバランスをコントロールすることで、目指す香りと味わいを引き出せるのではないかと考えました。これは、非常に難しい試みでした。ワインの渋みはポリフェノールの1種であるタンニンによるものとされていますが、タンニンは一つの物質ではなく、複雑な重合体を含む複数の化合物の総称です。これまで、ワインに含まれるタンニン量をコントロールするという考え方はほとんどありませんでしたから、何をタンニンとするかという定義から決めなくてはなりませんでした」

「冷たくてもおいしく感じるには、口に含んだときにふわっと感じる香り(口中香)が重要な役割を担っています。しかし、冷やしたときにちょうどいい香りに調節すると、常温では香りが強くなりすぎてしまいます。渋みも同様に、常温でちょうどいい渋みに調節すると、冷やしたときには渋みを強く感じすぎるのです。どのバランスがちょうどいいか、何度も試作を繰り返し、お客様への調査などを重ねた末に出来上がったのが現在の味わいです。わずかな違いでも同じ味にならない繊細なバランスでした。商品化するためには、安定して同じ味わいをつくり続けなければなりませんから、工場のブレンダーとの連携や情報交換も重要です」

ブレンドの難しさは、単に数値だけでなく、最終的には人の感覚(官能)によって調整しなければならない点にもあります。人間の嗅覚ほど繊細なものはない。それもまた、ワインづくりの面白さでもあります。

研究成果のポイントと、タンニン・コントロール

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赤・白そろって商品化を実現。切磋琢磨しつつ改良に取り組む

日常のいろいろなシーンで気軽に楽しめる新デイリーワイン「メルシャン エブリィ」

こうして誕生した「メルシャン エブリィ」(赤・白)は、日常的に、気軽に楽しめるデイリーワインとして、国内市場で受け入れられつつあります。商品開発の経験を生かして常にお客様の立場で考える占部研究員の視点と、ブドウに秘められた可能性をいかに引き出すかというテーマをとことん追求していく高瀬研究員の勢い。それぞれがよい刺激となり、さらなる技術開発や改良につながっていきそうです。
高瀬研究員の開発した技術は、ワインだけでなく、ノンアルコールの「メルシャンフリー スパークリング」といった商品にも応用されています。占部研究員は、商品という「モノ」だけでなく、どんなとき、どんな場面でどんなものと飲むか、「コト」にまつわる提案も行っていきたいと意欲的です。

彼らの活躍で、ワインをめぐる日本の状況が少しずつ変わっていくかもしれません。

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