試合詳細レポート

2010

キリンチャレンジカップ2010
4月7日 日本代表×セルビア代表

  2010FIFAワールドカップ南アフリカに向けた貴重なシミュレーションとなる『キリンチャレンジカップ2010』が、4月7日に大阪長居スタジアムで開催され、SAMURAI BLUE(日本代表)がセルビア代表を迎え撃った。
  ワールドカップイヤーの『キリンチャレンジカップ2010』は、2月2日のベネズエラ戦に続いて二度目となる。チケットは前売りで完売だ。暗闇の訪れとともにひんやりとした空気が立ち込めるが、スタジアムには試合前からサポーターの声援が響きわたる。戦いの舞台は整った。
  この日は国際Aマッチデーではないため、セルビア代表は国内クラブ所属選手による編成である。そうは言っても、10年3月10日現在のFIFAランキングで15位に食い込む強豪だ。若くて質の高いプレーヤーが揃うチームは、紛れもなく世界のトップクラスと言っていい。
  一方の日本も、セルビア代表と同じ理由からJリーグのクラブに所属する選手で固められた。岡田武史監督のもとで初出場となる栗原勇蔵(横浜F・マリノス)が先発メンバーに名を連ね、徳永悠平(FC東京)は2月2日のベネズエラ戦以来のスタメンだ。このところスーパーサブ的に起用されてきた興梠慎三(鹿島アントラーズ)も、09年1月20日のイエメン戦以来の先発である。
  フォーメーションは4−2−3−1が採用された。興梠を1トップに配し、右から中村俊輔(横浜F・マリノス)、遠藤保仁(ガンバ大阪)、岡崎慎司(清水エスパルス)が2列目に並ぶ。ダブルボランチは稲本潤一(川崎フロンターレ)と阿部勇樹(浦和レッズ)で、最終ラインは右から徳永、栗原、中澤佑二(横浜F・マリノス)、長友佑都(FC東京)の4バックだ。田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス)が出場停止で、内田篤人(鹿島アントラーズ)も右内転筋痛で欠場しているが、栗原と徳永にとっては存在感をアピールする絶好の機会である。GKはチーム最年長の楢?正剛(名古屋グランパス)だ。
  キックオフ直後の4分、スタジアムに緊張感が走る。縦パス1本で抜け出した相手FWが、楢?と1対1になる。シュートは右ポストを叩き、こぼれ球は栗原がクリアした。その直後にも強烈なミドルシュートを浴びるが、わずかにゴール左へ逸れて事なきを得る。
  しかし15分、序盤のピンチと同じように1本の縦パスでDFラインの背後を突かれ、ドラガン・ムルジャに先制点を喫してしまう。奪ったボールをすぐにフィニッシュへ結びつけた、セルビア代表の抜け目なさが光るゴールだった。
  日本代表も負けてはいない。19分、中村のスルーパスから長友が左サイドを突き、ゴール前へクロスを供給する。興梠がニアサイドへ飛び込み、岡崎がうまくバウンドを合わせて右足でボールにコンタクトする。ゴール左上への一撃は、194センチの長身GKにギリギリで弾き出されてしまった。
  直後の左CKでは、遠藤がショートコーナーを中村へつなぎ、リターンパスをペナルティエリア左から持ち込んで右足でフィニッシュする。鋭い弾道の一撃が相手GKを襲い、またも左CKを獲得する。
  遠藤の左CKから、ゴール前で制空権を握ったのは栗原だ。打点の高いヘディングシュートが相手GKを脅かす。立て続けに迎えた好機が、攻撃にリズムを与えていく。
  ここで再び、一瞬のスキを突かれてしまう。23分、ムルジャに2点目を許してしまうのだ。得点直前のポジションはオフサイドにも見える微妙な位置で、客観的な視点からも日本代表にとって不運の失点だった。
  キックオフ直後から「守備に不安定さを感じていた」という岡田監督は、0−2となった直後にシステムを微修正する。稲本により守備的な役割を与えるのだ。2点のリードを奪ったセルビアが、それまでにも増してカウンター狙いに切り替えてくるのは想定の範囲内だ。それだけに、稲本と最終ラインの関係を深めて速攻を未然に防ぎつつ、チーム全体としては攻撃を意識していくための対応だっただろう。
  システム変更の効果はすぐに表れる。26分、徳永の縦パスから興梠が右サイドを突破し、中央へクロスを供給する。ボランチからややポジションをあげた阿部が頭で合わせた。その後もいくつかの好機をつかむが、前半のうちにゴールを奪うことはできなかった。
  後半開始とともに、岡田監督は二人の選手を投入する。玉田圭司(名古屋グランパス)と石川直宏(FC東京)だ。これに伴い阿部が左センターバックへ下がり、4−2−3−1の「3」の並びが右から石川、中村、玉田へ変更される。来るべき戦いを見据えたオプション作りにトライしつつ、目前の敵であるセルビア代表の堅陣を突き破るための采配だ。
  点を取ろうという指揮官のメッセージは、59分に決定的なシーンを導き出す。中村のパスに呼応して動き出した石川が、最終ラインの背後でフリーとなる。GKとの1対1だ。しかし、「ゴールの右上を狙おうと思ったんですが、コースが甘かった」と悔やんだ一撃は、惜しくもGKの正面を突いた。
  流れは日本代表へ傾きつつあった。次に得点をあげれば、一気に主導権をつかむことも可能だっただろう。ところが60分、直接FKから痛恨の3点目を献上してしまう。
  ビハインドが重くのしかかるが、日本代表は闘志を失うことなく攻めたてる。69分には遠藤のスルーパスからまたも石川が最終ラインの背後でフリーとなる。だが、左足は空を切ってしまった。
  「0−3になっても攻める意欲はあった」と岡田監督が語ったように、日本代表は最後まで諦めずに攻撃を仕掛ける。途中出場の山瀬功治(横浜F・マリノス)や矢野貴章(アルビレックス新潟)も意欲的にゴールを狙う。一方のセルビア代表も、スタンドで見守るアンティッチ監督へのアピールに必死だ。互いに闘志をぶつけあいながら、試合は0−3のまま終了のホイッスルを迎えた。
  「後半は守備が安定して、サイドで起点も作れていた」と岡田監督は振り返る。メンバー発表前の最後のテストマッチということもあり、岡田監督は選手の見極めを、選手は最後のアピールをしたい気持ちがあったはずだ。残念ながら勝利をつかむことはできなかったが、この日抱いた悔しさは間違いなく今後につながる。
  2010FIFAワールドカップ南アフリカへ向けた次なる強化の機会は、5月24日に開催される韓国との『キリンチャレンジカップ2010』だ。苦い思いを味わうことになった今回のセルビア戦も、振り返れば大きな踏み台となるに違いない。

[文: 戸塚啓]

試合データ

■4月7日 大阪長居スタジアム
日本代表 [0-3] セルビア代表

日本代表選手集合写真 説明イラスト  1) GK 楢 正剛
 2) DF 徳永 悠平
 3) MF 阿部 勇樹
 4) MF 中村 俊輔
 5) DF 栗原 勇蔵
 6) DF 中澤 佑二
 7) FW 興梠 慎三
 8) MF 遠藤 保仁
 9) DF 長友 佑都
10) FW 岡崎 慎司
11) MF 稲本 潤一
  • 日本代表選手集合写真
  • 説明イラスト
  •  1) GK 楢 正剛
     2) DF 徳永 悠平
     3) MF 阿部 勇樹
     4) MF 中村 俊輔
     5) DF 栗原 勇蔵
     6) DF 中澤 佑二
     7) FW 興梠 慎三
     8) MF 遠藤 保仁
     9) DF 長友 佑都
    10) FW 岡崎 慎司
    11) MF 稲本 潤一

写真提供/(c)Jリーグフォト

<代表監督> 岡田武史

<出場選手>

■4月7日/大阪長居スタジアム
日本代表 (0) 0
セルビア代表 (2) 3 <ドラガン・ムルジャ ネマーニャ・トミッチ>
日本    
GK
DF 中澤 栗原(石川) 徳永 長友
MF 中村(山瀬) 稲本 遠藤(槙野) 阿部
FW 岡崎 興梠(玉田 矢野)
セルビア    
GK ジェリコ・ブルキッチ(ミラン・ヨバニッチ)
DF パブレ・ニンコフ(ミロスラフ・ブリチェビッチ)
ミロバン・ミロビッチ マルコ・ロミッチ ボイスラフ・スタンコビッチ
MF リュボミール・フェイサ(ニコラ・ミトロビッチ)
ラドサフ・ペトロビッチ ドゥシャン・タディッチ(アレクサンダル・ダビドフ)
ネマーニャ・トミッチ(ニコラ・ベリッチ)
FW ドラガン・ムルジャ デヤン・レキッチ(アンドリヤ・カルジェロビッチ)

*月日/場所
 国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)

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