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飲みものからくらしを考える

Vol.19 キリン食生活文化研究所 設立10周年記念シンポジウム

パネルディスカッションは、モデレーターに暮らし研究家の土谷貞雄さん、講師のNPO法人ミラツク西村勇哉さん、オムロン株式会社竹林一さん、NOSIGNER太刀川瑛弼さん、そして食文研からは太田が参加しました。

キリン食生活文化研究所(以下、食文研)は設立10周年を迎え「成熟化の中で新しい価値を生み続ける企業になるために…」と題するシンポジウムを開催致しました。当日は社内外から200名以上の方にご参加頂きました。シンポジウムでは3人のゲストの講演をいただき、食文研からは活動内容と今後の計画を報告、その後パネルディスカッションを行いました。シンポジウムの後にはワークショップも行い、多くの方と熱い議論を交わしました。
パネルディスカッションは、モデレーターに暮らし研究家の土谷貞雄さん、講師のNPO法人ミラツク西村勇哉さん、オムロン株式会社竹林一さん、NOSIGNER太刀川瑛弼さん、そして食文研からは太田が参加しました。

シンポジウムの背景

企業がどのようなプロセスでイノベーションをおこしていくのか、そのことは食文研にとっての大きなテーマです。今年の4月に取材で幸福学の研究者として知られている慶応大学の前野隆司教授への取材をした時、前野教授から新しい構想が生まれていくプロセスについて、目的を持たない集団のほうがかえって想像的なアイデアが生まれやすいという話を伺いました。それは幸福学で唱えている人間の幸せの4要素と強く関係しており、強制的に関わるのではなく、一人一人が自発的に関われる組織が大事だというのです。
その成功事例の中に、西村さんが行っている「ミラツク」の活動の話がありました。早速食文研は西村さんの取材に行ってきました。その時の話がとても興味深かったので、今回多くの人とそのことを共有し、またさらに会場のみなさんと一緒に考えたいと思いこの企画を行うことになったのです。ゲストには西村さんに加え、ミラツクの活動に初期から関わるデザイナーの太刀川さんと、西村さんとも近しく新規事業をいくつも成功させているオムロンの竹林さんにもお話をいただきました。パネルディスカッションに先立ってそれぞれの活動について説明をしてもらってから討議に入りました。ここではそれぞれの発表と合わせて議論の骨子をお伝えしていきたいと思います。

NPO法人ミラツク西村勇哉さん

西村さんの関心は「企業の人がより能力を発揮できるような組織とはどういうものか」という研究からスタートしています。そして能力が発揮できる場というのは働く人が成長していく組織であるという答えに行き着きます。人が成長して行けば、自然に創造的な構想がうまれていくというのです。その成長の仕組みをどうつくるのか、そして想像的な構想の生まれる確率やスピードをどう速めていけるのかを考え続けてきたのです。その実験の場が「ミラツク」です。
ミラツクの活動の前身は、ダイアログBARというイベントだそうです。毎回数名のゲストスピーカーの話をきいたあと、テーブルごとに分かれて議論をし、そして食事をするという単純なものでした。明確なゴールを設定するのでなく、自分の知らない、経験したことのない様々な人の生き方や働き方を知るということだけを繰り返したのです。毎回30から100人、3年間で述べ1,500人の人が参加し、そこで人々は啓発され成長し、また新しい創造的活動にもつながっていきました。その後も、参加者の構成、規模、内容、集まりの頻度などを変えてみながら、創発が生まれやすいプラットフォームの実現へと進化していきました。現在では100人のメンバーを招待制で、毎年2割程が入れかわっていく仕組みをとっています。
西村さんは「人が成長する」とは「心の視座が高まること」とも言います。それは知らないことを知っていくこと、知らない価値観を受け入れていくことだそうです。

NOSIGNER太刀川瑛弼さん

次に太刀川さんからお話を伺いました。太刀川さんはデザインに向き合う時に、クライアントのオーダーに対してより大きな課題に変えて問題を解くという「拡大解釈」という話をされました。心地よい空間、または美しいデザインということを超えて、デザインを通して企業の価値を社会に伝達し、販売の仕組みまで作り上げていく事例をいくつか紹介してくれました。ものの形をデザインするのでなく、クライアントの価値を創り出していく太刀川さんの作品は、どれも驚きがありました。ミラツクの場に高いレベルでのクリエータがいることが大事なことは当然推測できます。クリエータがいることで構想の具現化へのスピードが早まっていくのです。太刀川さんは、広い意味でのクリエータは誰もがなれるものだというものの、プロのクリエータたちはその構想を形に落とすことを日々鍛錬しているので、そのことがとても有効に作用すると言っていました。
とはいえ実際の新たなビジネスの構想は人が集まったからといってすぐに起きるものではないとも言います。お互いを知り合う期間が必要で、知り合った人たちがどこかのタイミングで、なにかをきっかけに意気投合して事業化へと一気に向かうのだそうです。その意味でもミラツクの場がお互いを知り合うために有効に作用しているようです。

オムロン株式会社竹林一さん

一方竹林さんは、新たなビジネスの構想は自然発生的というよりは、はじめに強いモチベーションがあると言います。竹林さんの場合、「社会課題を解決する新しい価値創造を通じて、エンジニアの目を輝かせたい」それが自分のモチベーションだと言っています。そのモチベーションを彼は「will」と呼んでいました。強いwillがあれば人々に伝播していき大きな力になるといいます。こうしたwillは企業内で生まれることもありますが、竹林さんはwillを育て大きくするために、秘密結社型の共創の場を企業の垣根を越えて取り組むことにチャレンジしているそうです。強いwillを持つ人たちが集まることでお互いに刺激し合い、新しい構想が生まれるのだそうです。

結果としてのイノベーション

この3人に共通するのは「イノベーション」を目的に置いていないことです。イノベーションは企業が生き残るために必要なのですが、結果的におきる成果の一つだと言えます。竹林さんの講演の中では、オムロンの創業者立石一真氏の言葉を引用して「企業は利益が必要だが利益のために存続しているのではない」ということを説明してくれました。西村さんも、個人の成長ということに視点を起き、人が成長するための仕組みをつくることが企業の役割だと言っています。そのために実験的に多様な価値観に触れる機会をつくり、いままで接点のない人と交わるプラットフォームをつくっているのです。人が成長すれば結果的にイノベーションはおきていくのです。

多くの企業がイノベーションを企業の存続の目的としてとらえ、部署のミッションとして進めます。しかし今回わかってきたのは、イノベーションは誰かに指示されて生まれるものではないということです。それぞれの人が自発的に、自分のこととして発案して立ち上がっていくものなのです。そして太刀川さんが心がけているような、オーダーを拡大解釈してより大きな課題として捉えていくことで創造的なアプローチが生まれてくるとも言えそうです。

シンポジウムを終えて

参加者のみなさんはどのように感じたでしょうか。アンケートや会場で感想を伺いました。それぞれのスピーカーの話にとても共感したようです。しかし日々の活動の中でこうした考え方を具体的にどのように現実のプログラムに落としていけるかは大きな課題です。今回の話を成功した結果として捉えるのでなく、そのプロセスに目を向けることが大切でしょう。そのプロセスに人の成長の仕組みがあることに注目しなければなりません。
そもそも通常企業では目的を持たずにはチームは編成しにくいものです。そのあたりの解決策のひとつとして、企業を超えた共創のプラットフォームは必要だとも思います。
そのため食文研は、社員のwillを形にするための、または大きな強いwillに育てるためのプラットフォームでありたいと考えています。設立してから10年間で培ってきた社内外のネットワークを、社内はもちろん社外の方々にも大いに利用してもらい、将来的には企業の枠組みを超えた大きな共創のプラットフォームをつくっていきたいと思っています。

プロフィール

西村 勇哉(にしむら ゆうや)
1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学(Human Science)の修士を取得。
人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2008年より開始したダイアログBARの活動を前身に、2011年にNPO法人ミラツクを設立。
Emerging Future we already have(既に在る未来を実現する)をテーマに、起業家、企業、NPO、行政、大学など異なる立場の人たちが加わる、全国横断型のセクターを超えたソーシャルイノベーションプラットフォームの構築と未来潮流に基づいた新規事業創出のためのプロジェクト運営に取り組む。共著「クリエイティブ・コミュニティ・デザイン」(フィルムアート社)
国立研究開発法人理化学研究所未来戦略室 イノベーションデザイナー、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科 非常勤講師、大阪大学大学院国際公共政策研究科 招聘教員、関西大学総合情報学部 特任准教授

プロフィール

竹林 一(たけばやし はじめ)
オムロン株式会社 技術・知財本部 SDTM推進室 室長
"機械に出来ることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである"との理念に感動してオムロンに入社。以後、仕事の原点は"人のやる気"を基本に、新規事業開発、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経て現職。
2016年日本プロジェクトマネージメント協会特別賞受賞。著書、「モバイルマーケティング進化論」、「PMO構築事例・実践法」、「利益創造型プロジェクトへの三段階進化論」等。

プロフィール

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ)
NOSIGNER代表
慶應義塾大学大学院SDM特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーションを目指し、総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等への見識を活かした手法は世界的に評価されており、国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI『OLIVE』を立ち上げ、災害時のオープンデザインを世界に広めた。その活動が後に東京都が780万部以上を発行した『東京防災』のアートディレクションへ発展する(電通と協働)。

画像提供:PHOTO BY MIKI CHISHAKI

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