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飲みものからくらしを考える

Vol.15 おひとりさま空間の変遷から社会の変化を読み解く〜個人と個人が時空を超えてつながる時代
〜社会学者 南後由和さんに聞く〜

2000年代には、ひとりで過ごすことを目的にした「おひとりさま空間」が多く出現してきました。単身者の増加も引き金になってこうした空間が増えてきたのですが、今それらは新たな方向性へと変わろうとしています。SNSやスマートフォンの普及によって、おひとりさま空間は物理空間とネット上の情報空間を横断しながら構築されつつあります。人と人とのつながりは、浅く広くなりながら拡散を続けています。しかもひとりの個人は複数性をもち、それらが幾重にも重なりながら、つながりが広がっているのです。今起きつつある人と人のつながり方について社会学者の南後さんに伺ってみました。

2000年代

そもそも都市とは異質な個人の集合体からなるものです。進学や就職を機に上京してくる単身者たちをはじめ、都市において一人でいることは珍しいことではありません。
特に欧米の主要都市と比べて、東京ではワンルームの賃貸住宅の割合も高いです。
昔から日本人は、四畳半の木賃アパートのように、人と一緒に暮らすというよりは、どんなに小さくても自分一人の空間を確保し、内にこもりたいという欲求が高いことも理由のひとつかもしれないと、南後さんは言います。他にも公共空間の中で音を遮断し、一人になる装置であるウォークマンも日本から生まれた製品です。
そうした時代を経て、2000年代に入ると、「おひとりさま」という言葉が生まれます。晩婚や非婚から生じる30代・40代の女性の一人暮らしと、高齢者の一人暮らしの増加という社会の変化が背景にありました。「おひとりさま」という言葉には、単身であることをあえてポジティブに捉えようとする意味合いがあります。それらの単身者の増加が少子高齢化や孤独死・無縁社会などネガティブなイメージと結びつきがちだったからです。
1995年にWindows 95が発売され、インターネットが普及し、携帯電話を誰もが持つようになると、住まいだけでなく、個人化が進む社会に対応した空間や装置が広がっていくようになりました。2000年代以降は、ネットカフェや漫画喫茶などのほか、おひとりさま空間の種類がどんどん増えていきます。一方で「便所飯」という、ひとりで食事をする姿を見られたくないという若者がトイレで食事をするという社会現象が生まれました。

南後さんによる「おひとりさま空間」の分布図

2010年代

2015年11月、池袋にオープンした「BOOK AND BED TOKYO」。泊まれる本屋をコンセプトにし、本を読みながら寝落ちする体験を提供するホステルとして話題に。2016年12月、京都に2号店がオープンした

2010年代になると、スマートフォンやSNSの出現によって「常時接続社会」が生まれてきます。常に誰かとつながっているという状態がお互いの監視状態をつくっていきます。SNSによって生まれるつながりは、浅く広いものであることが多いものの、そのことが人々の安心感や快適さもつくります。見知らぬ他者ではなく、趣味や価値観を共有するフィルターを通すことでゆるやかな連帯感を感じているのだと言います。
こうしたつながりはネット上だけでなく、リアルな場でも起こっています。たとえば本を読みながら寝落ちする体験を提供するホステル「BOOK AND BED TOKYO」はその典型的な例です。本を読みながら寝落ちする体験は自宅でもできることなのに、なぜわざわざその場所に集まるのでしょうか。その理由のひとつは、特に会話を目的とするわけではなく、何を「おしゃれ」とするかの趣味や価値観をゆるやかに共有する人たちが集まる場に身を置くことに心地よさを感じているからでしょう。
加えて、そういう場所にいる自分の画像をSNSに拡散していくという自己表現が生まれ、かっこいい自分や見られたい自分を演出するようになっています。空間がSNS映えするかどうかも重要です。そこでの振る舞いは、SNSを通じて他者に見られることが織り込み済みなのだと言います。
それは間仕切りを持ち、個室に分断されていた2000年代までのおひとりさま空間への志向とはあきらかに違っています。個人空間は物理空間のみならず、ネット上の情報空間を横断しながらつくられているのです。

個人と個人を掛け合わせるプラットフォームの誕生

空いた部屋や家を貸したい人と、それを借りたい人をつなぐ民泊の仲介ウェブプラットホーム「Airbnb」。世界190か国、34000以上の都市でユニークな宿泊場所を探すことができる

南後さんは、常時接続社会において個人が情報空間を介して他者と繋がるようになると「家族」という概念も変わってくると言います。情報空間では各自が一人として扱われますし、家で一緒に暮らすという行為をしながらも瞬時に一人になることができてしまいます。それぞれがSNSなどを介したネットワークを複数持っており、家族はそれらのネットワークの交差点に過ぎないとさえ言えるでしょう。
しかし、近年ではビジネスのプラットホームの中にさえ、個と個のつながりを促進するような仕組みを取り入れる事例も生まれています。民泊の「Airbnb」やハンドメイド作品を販売・購入できるサービス「minne」、自宅や職場の本をウェブプラットフォームに登録して貸し借り可能にする「リブライズ」など、単に場所や物を売買するだけでなく、その人の価値観に触れられるような仕組みが挿入されています。これらには、共通の価値観を持つ人の中での偶発的な出会いへの期待を見て取れると南後さんは考えます。

変化する「時間」の概念

「minne」は、ハンドメイド作品を販売・購入できるマーケットプレイス。アクセサリーや雑貨などのオリジナル作品や、様々なジャンルの作家に出会える

こうした社会の変化を読み解く鍵として、「時間」という概念にも注目したいと言う南後さん。昔の学生に比べると、今の学生は忙しそうに見えるそうです。それはマネージメントしている時間の単位が細かくなっているからだと言います。スマートフォンやSNSが普及し、ゼミ、サークル、バイト、地元の友人など、複数のグループと同時並行的にスケジュールを細かく調整することができるようになりました。たとえ待ち合わせに遅れても刻々と変化していく状況をお互いに連絡しあい、万一相手が遅れても、「隙間時間」を他のことに活用するというようなこともできるようになったのです。
時間を無駄にしたくないという欲求は、あらゆるところに働いていきます。例えば本を読むにしても、あらかじめネットのレビューでの評判を確認したり、著名人や友人がおすすめしている本を選んだりします。本を読む行為は、時間がかかるものです。わざわざ時間をかけたにもかかわらず、期待外れに終わらないようリスク回避をしているのです。その一方で、交通の便が悪い地方の音楽ライブ会場に足を運んだりするなど、自分にとって価値があると感じるものには、その体験にとことん時間をかけることもします。

面から線に、そして点に

SNSは遠く離れた「点」に人々を集めることも可能にしました。雑誌は、新宿や渋谷など、エリアを限定した特集を組み、都市を「面」として切り取るメディアです。携帯電話が台頭してくると、渋谷センター街や裏原宿などのストリートが「線」として注目されるようになりました。スマートフォンやSNSが普及した現在では、面的な集積や線的な連なりがなくても、コンテンツ次第では、たとえば個人の家であってもその「点」としての空間が、人を集めることを可能にしてしまうのです。

開きながら閉じる。閉じながら開く

南後さんが特集を担当した『建築雑誌』2015年1月号。特集タイトルは「日本のおひとりさま空間」

現代のコミュニケーションの仕方で特徴的なのは人間関係やネットワークのスイッチングです。こうした状況を反映しているものに、シェアハウスがあります。一人一人の個室は確保されているものの、他の人と一緒に過ごす空間や時間を楽しむような暮らし方が生まれています。もともと日本人は小さくてもいいから独立した空間を持ちたいと思っていたと冒頭で話しましたが、その欲求がなくなったのではなく、情報空間を介してどこにいても一人になれる、または他の自分になれるというスイッチングの仕組みがあることが重要です。
ネット上に身を委ねながら「おひとりさま空間」を保つことは世界的に起きている傾向とも言えますが、障子などの薄く弱い仕切りを使い微妙なバランスで、プライベート空間を形づくってきた日本の文化的背景との関係もあるかもしれません。
今まで閉じてきた空間は常時接続社会に入り、それまでとは反対にどんどんと開いているように見えます。しかし、それは開きながら閉じた社会を手に入れるということなのかもしれません。そこに日本人の、または現代人の新たな人とのつながりのかたちがあるのかもしれないのです。

プロフィール

南後由和(なんご・よしかず)
1979年大阪府生まれ
明治大学情報コミュニケーション学部専任講師
専門は社会学、都市・建築論
東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学

主な編著に『建築の際』(平凡社、2015)、『磯崎新建築論集7 建築のキュレーション』(岩波書店、2013)、『文化人とは何か?』(東京書籍、2010)、共著に『商業空間は何の夢を見たか』(平凡社、2016)、『TOKYO1/4と考える オリンピック文化プログラム』(勉誠出版、2016)、『モール化する都市と社会』(NTT出版、2013)などがある。

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