商品の評価技術の
開発をテーマに、
知られざる領域へ
挑み続ける。

キリンホールディングス株式会社
R&D本部 キリン中央研究所

星 朱香

Ayaka Hoshi
2011年入社 農学生命科学研究科修了

Profile

2011年入社後、フロンティア技術研究所(現:キリン中央研究所)に配属。味覚や嗅覚などの感覚をヒトや動物を用いて評価する技術開発を担当。具体的には、官能評価によって商品の香味コンセプトを正確に評価する手法の開発や、脳活動を計測し、パッケージングデザインやCM画像を評価する手法の開発を行っている。

※所属・仕事内容は取材当時

自由な発想が尊ばれるフィールドで、
中長期的なビジョンで
研究に取り組む。

 キリン中央研究所は、「科学の力で驚きと感動を創り出す」というビジョンのもと、グループ各社に広く活用できる技術を開発することをミッションにしています。そのなかで、私が手がけているテーマは、商品を総合的に評価できる技術の開発です。大きく二つの方向からアプローチしており、まず一つは中味。従来は人が感じた味や香りの強さなどを一面的に数値化する手法がメインでしたが、飲んだ瞬間から感じる味のトータルの変遷を波形データで抽出し、経時変化をより視覚的に捉える手法の確立を試みています。また、もう一つは外見。商品を手に取るきっかけとなるパッケージングデザインや、TVCMが見た人にどういう影響を及ぼしているかを脳活動や自律神経などの角度から分析、評価する手法を研究しています。いずれもまだまだ未知の部分が多く、模索を繰り返す日々ですが、仮説通りの結果が得られたときには喜びを感じますし、中長期的な視点から自由な発想で研究開発ができるキリンの懐の大きさを実感しています。

より高い精度での
客観的なデータ化を追求。
ビジネスに、そして、
社会に貢献する技術を目指す。

 ヒトの感覚や脳活動を計測する研究は不明な部分も多いだけに、かかる時間や労力も並外れ。とりわけ、味覚の評価技術の研究においては、パネルと呼ばれる被験者の育成に時間を要します。そもそも味覚は主観的な感覚であり、個人個人それぞれ個性があるもの。それを高い精度で評価していくうえでは、トレーニングを積んだパネルの存在が極めて重要です。たくさんの候補者のなかから選抜し、さらに正確に味を識別できるトレーニングを積んで育成するというプロセスは想定していた以上に大変。加えて、パネルもヒトですから、試験の際の説明の仕方や心理状態などで出てくる結果は左右されます。なるべくバイアスがかからない均一な状態で試験を受けていただくよう配慮していますが、それでも些細なことで出る結果が変わるので、そこにはヒト試験ならではの難しさを実感しています。まだ技術の確立という段階には至っていませんが、これまで開発担当者が感覚的に捉えていた味の変遷を技術で数値化でき、データを強い納得感のもと受け入れていただいたときには手応えを感じますし、自信にもつながります。ヒトの感覚や脳活動は依然ブラックボックスが多い領域ですし、研究は一朝一夕でできるものではなく、試行錯誤の連続。しかし、これらの技術が確立できれば、本当の意味で商品コンセプトに合致した中味の開発を容易にし、デザイン、広告戦略などにも大きく貢献できると確信しています。

学生生活
振り返って

生命現象の神秘に魅せられ、
研究に没頭。
現在へとつながる研究者としての
礎を築いた。

 学生時代は、植物に感染すると植物に形態異常を引き起こすバクテリアに生命現象の面白さを感じ、研究に没頭。せっかくなら、次のキャリアにつなげたいと考え、その分野で世界をリードするような研究室で博士課程まで修了しました。研究を一生懸命やってきたことで、研究に対する考え方は当時いろいろと鍛えられました。また、論文を書くことや、発表することも多かったので、そこも会社に入社してからも活かされていると実感しています。研究においては、実験に失敗したとしても、それは前に進む大切な一歩と学びました。学生時代に抱いたその思いは、今も自分の芯となっています。