[ページの先頭です。]

ページ内を移動するためのリンクです。

[ここから本文です。]

ビールをおもしろくすることで、見えてくる未来がある。ビールをおもしろくすることで、
見えてくる未来がある。
〜クラフトビール戦略〜

2015年、キリンにおいて今までにない新しい事業が立ち上がった。その名も『スプリングバレーブルワリー』。クラフトビールを通じて、ビールの未来を創っていこうというプロジェクトだ。仕掛け人は、企画当時入社5年目の吉野桜子。新規事業の考案は、職務としてではなく、自発的に行ったもの。彼女の行動力の源泉となる思いと、キリンのクラフト戦略を紐解く。
※内容・登場社員の所属は取材当時

入社5年目。思いの丈をぶつけるべく社長へ直談判!

  吉野桜子は、社長(当時キリンビール社長)の磯崎功典に直談判していた。
「社長、私たちは仕事としてビールと向き合っていませんか?」
 入社して5年が過ぎようとしていた。マーケティング部門でチューハイやカクテルなどの新商品開発に関わってきた吉野だったが、若い人や女性が求める「選ぶ楽しさ」という新しいニーズには、ビールで応える必要があるのではと考えるようになった。キリンの中核はビールと信じるからだ。
「最近のビールは画一的で、工業製品のよう。でも、ビールというのは自然素材を原料に、自然の力を借り、人の手で丹精込めてつくられていく農業製品です。色味や香味など、その仕上がりも多種多様。こうしたビール本来の幅広さ、奥深さ、それに伴う楽しさをきちんと伝えていくことが、私たち大手ビールメーカーが果たすべき使命ではないでしょうか」
 場所も、設備も、人員も、予算も、スケジュールも、そして見通しもまったくの白紙。こんな事業計画の体裁もなしえていない話に耳を傾ける経営幹部などいない。それでも吉野には、明確なイメージがあった。

 ビール本来の姿を伝え、楽しんでもらうために、まずはパブ併設のガラス張り小規模ブルワリーを建設。醸造するのは小ロット生産のクラフト、つまり手工芸品のようなビール。設備の中の様子もつぶさに見られるよう、仕込み釜や発酵・熟成タンクにもガラスを採用。日本酒やワイン同様、ビールも人の手によってつくり出されていることを伝えていく。
 立地も重要だ。これからの時代は自然との共生、サステナビリティがキーワード。これに適った再開発地区などで、これまでお客様が口にしたことのないような、農業製品としてのさまざまなビールを提供。そのビールに合う料理とともに、ビール本来の味、香り、そこに宿るストーリーで、心を満たしていく---。
 そんな、わくわくするようなビールの未来をつくりたい。その一心で吉野は、磯崎が社長に就任したタイミングで、多忙なスケジュールをやりくりしてもらい、直談判の機会を得たのだった。吉野のほとばしるような思いは、磯崎に伝わった。
「どうせやるなら、スゴイことをやってくれ」
『スプリングバレーブルワリー』プロジェクトがスタートした瞬間だった。

社内プレゼンは約200回。誰もやったことのないことを形に。

 吉野がまず着手したのが仲間探しだった。本人曰く「少年マンガのよう」と笑うが、事業として成立させるためには人数こそ違え、キリンという会社を構成するのと同じ職種、専門性を備えた仲間が必要だ。そのために彼女は、社長への直談判と同様、社内各部署に出向いて計200回にも及ぶプレゼンを実行していった。
 その過程では、「そんなことをやっている場合なのか」「いくらなんでも夢物語すぎないか」といった懐疑的な意見もあった。それでも吉野は、「この取り組みがビールの未来をつくるんです!」と熱く説いた。そうこうするうちに一人、また一人と、仲間が増えていく。ビールでおもしろいことをしたいという思いは皆同じだった。
 仲間が集まったところで、次に着手したのが場所探し。吉野は1年かけ、東急東横線が地下化されたことで生まれた東京・代官山の地上スペースと巡り合う。地域コミュニティの求心力となる場所にしたいという東急側の思いと、ビールの新しい文化の発信地としたいという吉野の思いが一致した。そしてここから、プロジェクトは一気に加速していく。
「場所さえ決まってしまえば、あとは各自専門家なので、私はお任せするだけでした。印象的だったのは皆、まるで新しいおもちゃでも手にしたかのように、楽しんで取り組んでくれたこと。ビールに香り付けができるオリジナルのサーバーも、醸造の常識では『絶対にあり得ない』と言われた透明な釜やタンクなどの設備も、決して簡単な道のりではありませんでしたが、実現させることができた。ゼロからモノをつくると、こんな自由な発想で、こんなスゴイものがつくれるのかと、キリンという会社の技術力、秘めたポテンシャルの高さを、まざまざと見せつけられるような思いでした」

 こうした吉野たちの一連の取り組み、その熱意に心動かされた一人が、ほかならぬビール企画担当の牧原だった。実は牧原も、ビールの多様さ、楽しさを広げることで、もっと豊かな未来をつくりたいと日々考えていた。そんなとき、クラフトビールのリーディングカンパニーであるヤッホーブルーイングから業務提携の打診を受ける。自社の設備では製造が追いつかないので、その部分で協力してもらえないかという内容だった。
 大手ビールメーカーのキリンが、クラフトビールメーカーとタッグを組むことは前例がなく、社内では反対の声もあがった。だが、牧原は考えた。
「リスクをとってでも何か新しいことにチャレンジしなければ、未来に前進しない。この提携は、スプリングバレーブルワリーの取り組みにも、きっとプラスになるはずだ」
 牧原は業務提携のみならず、さらに踏み込んだ資本提携として話をまとめていった。

お客様に喜んでもらえるビールを提供したい。

 2015年4月、晴れて『スプリングバレーブルワリー』はオープンした。初日から連日の大盛況。マスコミにも頻繁に取り上げられ、他のクラフトビールメーカーからも徐々に期待と歓迎の声が寄せられるようになってきた。「大手の力を結集して本気で“遊ぶ”とこうなるのか」と、想定を越えた結果と反響に当の吉野も驚いているが、何より彼女を喜ばせているのは、ビールと無縁だった女性の姿が多いこと。ビールの多様性、奥深さをきちんと伝えれば、新しいファンの獲得も可能であることを実証できたことは、キリンにとっての明るい材料だ。
 こうした現状を踏まえ、牧原が語る次の言葉は、あまりにも率直だ。
「今までのキリンであれば、数量規模としては小さすぎ、効率や手間、短期的な投資回収を考えて、クラフトビールに参入することはなかったでしょう。しかし、縮小傾向にあるビール市場を目前にして、『お客様に喜んでもらえるビールを提供したい』という原点に立ち返ることができました。クラフトビール市場は、ビール市場全体の1%にも満たない規模ですが、クラフトビール先進国のアメリカにおいては11%、金額ベースで見ると20%にも達している成長分野です。私たちは今の日本のクラフトビール人気をブームとして終わらせないためにも、時間をかけて市場を大きくしていきたいと考えています」
 短期ではなく中・長期的な視点に立って、市場そのものを育てていくことが大手ビール会社の使命。パイの奪い合いではなく、ビールをおもしろくすることでパイそのものを大きくしていこうと考える今のキリンを体現するもの、それがクラフトビールなのである。

PROFILE

吉野 桜子Sakurako Yoshino

スプリングバレーブルワリー株式会社 マーケティングマネージャー 2006年入社/文学部卒

千葉で営業を担当した後、マーケティング部に異動。チューハイやカクテルなどの商品開発に従事した後、ビールの開発担当に。この頃から、「ビールで何かおもしろいことをしたい」という思いが頭をもたげ、『スプリングバレーブルワリー』に結実する。

牧原 達郎Tatsuro Makihara

キリンビール株式会社 企画部 1999年入社/法学部卒

物流部門での需給管理や、サプライチェーンマネジメント業務などを通じて、組織全体を俯瞰する広い視点を養う。さらに国内MBA留学により企業経営を深く学んだ後、現部署に異動。現在は、ビール事業全体を見渡し、あるべき姿、進むべき方向を絶えず模索する。

[ここからフッタです。]

先頭へジャンプ