[ページの先頭です。]

ページ内を移動するためのリンクです。

[ここから本文です。]

免疫細胞pDCを直接活性化するプラズマ乳酸菌(JCM5805株)を発見

レポート

ウイルス感染防御を担うプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)を
直接活性化する乳酸菌を発見し、第59回日本ウイルス学会学術集会で発表しました。

ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株<br>(プラズマ乳酸菌)

ラクトコッカス・ラクティスは、主にチーズやヨーグルト製造に用いられる乳酸菌の一種です。キリンホールディングスのフロンティア技術研究所と小岩井乳業(株)は、ラクトコッカス・ラクティスであるプラズマ乳酸菌(Lactococcus lactis JCM5805株、以下JCM5805株)(*1)が、体内に侵入したウイルスを認識して活性化するプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)という免疫細胞を直接活性化することを発見しました。
免疫力を高めてウイルスに対する抵抗性を強めるには、インターフェロンα(IFN-α)産生を増強することが重要です。これまでに行った細胞および動物実験により、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)には、インターフェロンα産生能を高める作用など、さまざまな免疫機能増強効果があることを確認しており、機能成分も明らかになってきています。

  • *1 当社では、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)を直接活性化することのできる乳酸菌を「プラズマ乳酸菌」と呼称しています。JCM5805株は、以下の研究で、125株の乳酸菌の中から発見したプラズマ乳酸菌の一つです。

ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株
(プラズマ乳酸菌)

ウイルス感染防御に重要な役割を果たすpDC

近年、鳥インフルエンザやノロなどのウイルスに関するニュースが報じられています。遺伝子と容器といった簡単な構造からなるウイルスは、自力では生きていけず、他の生物に侵入して細胞を乗っ取り、ウイルスの増殖のために栄養素を奪います。乗っ取られた細胞は死んでしまい、ウイルスは増殖します。生体はウイルスを排除しようとはたらきますが、防御が追いつかないとウイルスが定着し、症状を引き起こすこともあります。これをウイルス感染といいます。
フロンティア技術研究所では、こうしたリスクを「食」によって避けることができないかと考え、小岩井乳業(株)と共同で、乳酸菌の探索に取り組みました。

一般に「感染」といわれるものには、大腸菌O-157や結核のような細菌性のものと、インフルエンザのようなウイルス性のものが知られており、生体はそれぞれに防御システムを用意しています。下の図のように、人の体には、ウイルスが侵入すると、免疫細胞であるpDCが活性化し、インターフェロンを放出してウイルスを排除するという感染防御システムがあります。
pDCは、哺乳類の血中にある免疫細胞の一種で、ウイルスに反応して活性化し、インターフェロンα(IFN-α)を産生します。IFN-αには、ウイルスやガン細胞の増殖を抑制するなどのはたらきがあります。そこで研究チームは、乳酸菌でpDCを活性化することができれば、ウイルス感染を防御できるのではないかと考えました。

ウイルスが侵入するとpDCが活性化し、インターフェロンを放出してウイルスを排除する もしも、乳酸菌でこの経路を活性化できたら?

ページトップへ

「細菌はpDCを直接活性化できない」という定説に、あきらめず挑戦

これまでは、2009年に「細菌はpDCを直接活性化できない」という研究論文(*2)が発表されたことから、細菌の一つである乳酸菌も同様に、pDCの活性化は不可能だと考えるのが妥当でした。しかし、免疫賦活機能や腸内環境改善など数々の健康機能が知られる乳酸菌の力への期待から、研究チームはこの定説に挑戦しました。

マウス由来のpDCを用いて、31菌種125株にわたる乳酸菌を接触させ、IFN-αが産生されるかを調べたところ、やはり、ほとんどの乳酸菌は無反応でした。しかし、ごく少数ながらも、高い活性を示す乳酸菌が見つかったのです。主にチーズ製造に使われるラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)に属する乳酸菌です。研究チームは、pDCを直接活性化する乳酸菌を「プラズマ乳酸菌」と名づけ、その中の一つ、Lactococcus lactis JCM5805株を用いて、さらなる機能解明に取り組みました。

  • *2 Human plasmacytoid dendritic cells are unresponsive to bacterial stimulation and require a novel type of cooperation with myeloid dendritic cells for maturation. Blood, 2009,113:4232-4239.

ページトップへ

市販ヨーグルトの乳酸菌との比較

国内で市販されているヨーグルト7製品から分離した乳酸菌について、pDCの活性化が見られるかを同様の方法で調べました。その結果が下のグラフです。これらの乳酸菌では、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)のような高いIFN-α産生を示すものは見つかりませんでした。IFN-αは、インターフェロンの中でもウイルス感染防御で中心的な役割を果たすといわれています。プラズマ乳酸菌(JCM5805株)はpDCの活性化により、IFN-α産生を強く誘導することが分かりました。またマウスだけでなく、ヒトのpDCを用いた同様の実験でも、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)による活性化を確認しています。

乳酸菌によるpDC活性化能の比較

ページトップへ

プラズマ乳酸菌により活性化したpDCの姿

pDCが活性化する様子を観察すると、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)と他の乳酸菌との違いがよく分かります。樹状細胞という名前のとおり、pDCが活性化すると、写真の矢印で示した部分のように、樹状の突起が発生します。

ページトップへ

pDC活性化の鍵はプラズマ乳酸菌のDNA

pDCの細胞内にはウイルスを認識する受容体があり、プラズマ乳酸菌も、その受容体に認識されると考えられます。そこで、受容体を破壊したpDCでプラズマ乳酸菌(JCM5805株)による活性化能を確認し、TLR9という受容体がプラズマ乳酸菌を認識することを突き止めました。

プラズマ乳酸菌(JCM5805株)による活性とpDCの受容体との関係

pDCのような樹状細胞には、IFN-αを誘導する受容体として、TLR7とTLR9があります。それぞれが発現していないpDCを調製し、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)による活性化(IFN-α産生量)の違いを比較しました。TLR9のないpDCではIFN-αの産生が認められないことから、pDCのTLR9という受容体がこの乳酸菌を認識し、IFN-αを産生させていることが示唆されました。

TLR9は、特殊なDNAを認識することが知られています。そこで、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)のDNAがpDCを活性化させているのではないかと考え、次の実験を行いました。プラズマ乳酸菌から抽出したDNAをpDCに添加したところ、下のグラフのとおり、大量のIFN-αの産生が確認されました。
この2つの実験から、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)のDNAがpDCの受容体TLR9に認識されることでpDCを活性化し、IFN-α産生を誘導していることが示唆されました。

乳酸菌のDNA、RNAとpDC活性化との関係

pDCの受容体TLR9は、ウイルスや細菌が持つ非メチル化CpG DNAに特異的に結合することが知られています。実験では、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)と市販ヨーグルトの乳酸菌のDNAとRNAを調製し、量を変えて、pDC活性化能の変化を調べました。その結果、これらの乳酸菌のDNAがpDCを活性化することと、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)のDNAのpDC活性化能が非常に高いことが示唆されました。市販ヨーグルトの乳酸菌は、菌体のままではpDCに認識されませんが、プラズマ乳酸菌は菌体のままでpDCのTLR9に認識され、そのDNAによりIFN-αの産生を促すと考えられます。

ページトップへ

プラズマ乳酸菌は、pDCに直接作用する

従来から、免疫増強作用を示唆する乳酸菌が報告されていますが、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)との違いは、反応プロセスをみても明らかです。乳酸菌の中には、マクロファージに作用して、細菌など細胞を殺傷するナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性を上げたり、そこから間接的に作用してIFN-α産生を誘導するものがあります。しかし、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)は、マクロファージとpDCの両方に直接作用します。また、pDCの活性化により、IFN-αだけでなく、IFN-β(ベータ)やIFN-γ(ガンマ)の産生も誘導することが分かってきました。
IFN-βとIFN-γは、いずれも免疫細胞が分泌する情報伝達物質の一種です。IFN-βは、IFN-αと同様に、ウイルスやガン細胞の増殖を抑制するなどのはたらきがあります。近年見つかったIFN-γは、腸管感染性ウイルスの排除に重要であることが分かってきています(*3)。

  • *3 Pott J, Mahlakoiv T, Mordstein M, Duerr CU, Michiels T, Stockinger S, Staeheli P, Hornef MW (2011) IFN-γ determines the intestinal epithelial antiviral host defense. Proc Natl Acad Sci USA 108: 7944-7949.

ウイルス感染防御は、国内だけでなく、世界的にも大きな課題となっています。キリングループでは、今回の研究成果を活用し、今後も「食と健康」の領域での研究開発に取り組み、プラズマ乳酸菌のヒトに対する作用などを確認していきます。

日本ウイルス学会学術集会とは

主にウイルスにおける研究・調査に関わる学術機関「日本ウイルス学会」(1953年設立、英語名 The Japanese Society for Virology)が開催する年次学術集会です。分子生物学者や生化学者、医師、歯科医師などの臨床系分野の研究者も数多く参加しています。

ページトップへ

[ここからフッタです。]

先頭へジャンプ