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研究・技術開発成果

「良薬は口に苦し」を実証!ビールの苦味成分「イソα酸」に認知症予防効果を発見
~世界初の研究に取り組んだキリンの若手研究者~

研究・技術開発インタビュー

急速に高齢化社会が進む中、認知症を患っている人は、国内で約460万人、世界で約2,430万人といわれ、大きな社会課題となっています。脳の老化への不安が高まるなか、日常の食生活を通じて予防する方法を見つけたい。そんな思いで脳科学分野の研究に取り組む若手研究者が、ホップ由来のビールの苦味成分にアルツハイマー病予防効果があることを見出しました。古くから伝わることわざのとおり、「良薬は、やはり口に苦かった!?」驚きの研究成果をご紹介します。

阿野泰久(あの・やすひさ)

キリン(株)R&D本部 健康技術研究所 研究員

大学院修士課程修了後の2009年、キリンビールに入社。2012年に農学博士号取得。認知機能や免疫機能に関する研究に従事し、2015年には、カマンベールチーズからアルツハイマー病予防に有効な成分を発見。大きな注目を集めた。

う~ん、苦い! ホップ由来の「イソα酸」を飲んでみた

「本当に飲むんですか?」と笑いながら、イソα(アルファ)酸の原液と飲料水を用意してくれた阿野泰久研究員。イソα酸は、ビールやノンアルコールビールの苦味の本体となる成分で、ホップに含まれるα酸から製造工程で生成されます。この原液をスポイトで吸い、水の中にポトリ、と1、2滴。ビールと同程度の約1万倍に薄めたものを口に含むと、うーん、たしかに苦い! まずくはないけれど、いつまでも舌にまとわりつくような、後を引く苦さです。いわば、ビールから苦味だけを単体で取り出したようなもの。この「イソα酸」こそ、阿野研究員が新たな健康作用を突き止めた、今回の研究の主役です。

お酒を適量たしなむ人は、老後の認知機能が高い

大学院在学中から脳疾患の研究に取り組んでいた阿野研究員がキリンに入社したのは、日常生活と切り離せない「食」を通じて社会課題に貢献できる研究活動をしたいと考えたからでした。ビールやホップに着目したきっかけは、「お酒を適量たしなんでいる人は、老後の認知機能が高い」という疫学調査や、「適度な酒類の摂取は認知症の防御因子である」との報告でした。ホップは1000年以上薬用植物としてビールの原料に使用されてきており、キリンでもこれまで生活習慣病の改善効果、骨粗しょう症の改善効果などさまざまな生理機能を解明しています。
「赤ワインポリフェノールは認知機能に関する研究が多く報告されていましたが、その他の酒類についてはあまり報告がありませんでした。キリンには、ホップをはじめとするビール原料を研究してきた長年の蓄積がありました。そこで、弊社のもつ技術や成分サンプルを、認知症予防につながる成分の探索に活用しようと思うに至りました」

脳内のお掃除細胞「ミクログリア」を活性化させる成分を探せ!

とはいえ、着手した当初は、どの成分に認知症予防の作用があるかは見当がつきませんでした。苦味の成分、香りの成分など、健康に効果のありそうな成分は何十種類もあります。阿野研究員が着目したのは、脳内のお掃除細胞といわれる「ミクログリア」の活性化でした。カマンベールチーズの研究(*1)で詳しく紹介していますが、ミクログリアは脳内で唯一の免疫細胞。認知機能の低下をもたらす脳内の老廃物を除去する働きをします。このミクログリアを用いて、さまざまなビール成分を評価したなかで、顕著な活性を示したのが「イソα酸」だったのです。

図1 加齢によって脳内に老廃物がたまると、認知機能が低下する

(*1)カマンベールチーズから、アルツハイマー病予防に有効な成分を発見

「イソα酸」のもつ多彩な健康作用

イソα酸について、阿野研究員は次のように話します。
「イソα酸は、ビールやノンアルコールビールに多く含まれる成分で、ビール1缶に数-数10mgくらい含まれます。とくにインディアンペールエール(IPA)のような苦味が特徴的なクラフトビールなどには多く含まれます。キリンでも、2000年頃に生活習慣病の改善効果を発見するなど、長年、研究対象としていたのです」
そのイソα酸と認知症予防との関連を突き止めた阿野研究員は、東京大学が保有するモデルマウスを用いて効果を検証しました。そして、実際にイソα酸が脳内の老廃物を減らし、認知機能を改善することを確認したのです。

イソα酸の認知機能改善効果

日本認知症学会で発表。大きな反響を呼ぶ

今回の研究成果は、第35回日本認知症学会学術集会で発表され、新聞や雑誌などマスコミにも大きく取り上げられました。研究を振り返って、阿野研究員は次のように話します。
「認知症を引き起こす原因に未解明な部分が多いなか、認知症予防効果の作用機序まで特定できた単一の食品成分は世界的にもわずかです。その一つを、身近な飲食品から特定できたことがうれしいですね。今後は、ヒトを対象とした実証実験にも取り組んでいきたいと思います」

イソα酸の元となるホップは、古くから薬用植物として知られています。人間は本来、苦いものはあまり好まないはずなのに、ホップは、ビールの原料として1,000年以上飲み続けられています。そこには、苦いだけでない何かしらの意義があるのではないか──。今回の研究結果が一つの確信となり、さらなる秘密を探っていきたいと阿野研究員は力を込めました。

社会的に満たされていないニーズを見つけ、驚きを与えたい

世の動向に敏感で、興味関心の幅が広く、アイデアが豊富な頼れるチームリーダー。そして、冗談を飛ばしてはチームを盛り上げるコテコテの関西人。それが、後輩たちからの阿野研究員評です。研究者としてのモットーは、「社会的に満たされているテーマかどうか」を常に考えること。
「ニーズが高いけれど、誰も手をつけていない、アプローチ方法もわかっていない。そうした満たされていないテーマを見つけて、ゼロから探索をする。そこに研究者としての意義を感じます」

未知の領域を探索し、世の中に驚きを与えたい。そう話す阿野研究員にとって、認知症予防も、引き続き重要なテーマです。
「認知症は、今後ますます大きな社会課題となってくると思います。日常生活の中で気軽に健康をサポートできるような、お客様価値を生み出していきたい。」
食品や飲料にとどまらず、医薬を含めた幅広い連携が可能なキリングループの研究体制も大きな強みです。キリンならではの環境をフルに生かして、どのような成果を生み出していけるか。阿野研究員を中心とする若い力に、今後もご期待ください。

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