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世界が注目! 魚介とワインの組み合わせで発生する生臭い「におい」のメカニズムを解明

研究・技術開発インタビュー

皆さんの中には、料理とワインの組み合わせを意味する「マリアージュ(結婚)」というワイン用語をご存じの方も多いでしょう。メルシャンでは、その中から「魚介とワイン」に着目し、海外からも注目を集める研究成果を発表しました。研究の過程を、田村隆幸・主任研究員に聞きました。

田村隆幸(たむら・たかゆき)
メルシャン(株)商品開発研究所 ワイン技術開発グループ 主任研究員

名古屋大学大学院修了(生物機能工学専攻)。学生時代にピアノバーでアルバイトをしたことを機に「酒と食」に関心を持ち、1999年の入社以来、ワインの研究開発に携わる。「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」(2003年)、高GABA含有ワイン「シャルドネGABA」(2006年)などを開発。現在、「食とワインの組み合わせにおける相互作用」「ワインの酸化抑制」「ワインの味わい」などをテーマに研究中。

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突き止めた「生臭み」の正体

ホタテとワインで官能評価を行う田村主任研究員

「魚に白ワイン」「肉に赤ワイン」とよくいわれるように、料理とワインの「マリアージュ(結婚)」は、ワインを楽しむための重要な要素といわれています。ところが、魚介料理とワインを同時に口にした瞬間、まれに不快な「生臭み」を感じることがあります。魚介そのものの臭みではなく、一緒に口にしたときに発生する生臭み。その原因はどこにあるのだろう──。こうした興味から、研究は始まりました。

「発端は2001年のことです。当時の研究所次長だった大久保敏幸さんが、この生臭みに気づき、『この課題を解消すれば、より多くの方々にワインを楽しんでいただけるのではないか』と考えたんですね。そこで、自分の夕食を題材にして調査を開始。数カ月間、毎晩、同じワインにいろいろなおかずを合わせて食べてみて、生臭みを発生しやすい食材や料理を探し出したのです」

膨大なデータをもとに、大久保さんが探り当てたのは「ホタテの干物」でした。そこから研究は本格化。今度は、同じホタテの干物に69種類のワインを合わせ発生する生臭みの強さを調べました。実験で使ったのは、「官能評価」といって、人の感覚を用いる手法です。7~8名の社員が、ホタテの干物とワインを口にしたときに感じる生臭みの強さを5段階で評価し、ワインのどの成分が魚介と衝突するかを調べました。

メルシャンではワインと日本の食との相性を研究しています。

その結果、突き止めたのは「鉄」でした。ワインに含まれる鉄が多いほど、生臭みが強くなるのです。これは、世界初となる発見でした。

「ちなみに、『甲州』ブドウからつくられるワインには統計的に鉄が少ないという調査報告があり、寿司や刺身などの和食と相性がよいことの一因と考えられます。」

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口の中で何が起きているのか、この手で解明したい!

におい嗅ぎガスクロマトグラフィーを使って、においの成分を分析

ワイン中の「鉄」と生臭みとの相関関係が明らかになったことから、田村主任研究員たちは、鉄含有量の低いワインの商品開発も成功させました。ここで、研究開発は一旦完結。しかし、心の中ではさらなる研究への思いがふくらんでいったといいます。

「ワインの中の鉄が、原因であることは分かったけれど、なぜ生臭みが生じるのか、メカニズムがはっきりしませんでした。ホタテの干物とワインを口に含んだときに生臭みが発生するのは、口の中で、何か別の物質ができているからではないか。それは何だろう。口の中で起きていることを突き止めたい。その好奇心が抑えられなくなったんですね」

念願が叶い、研究の再開が決定したのは07年のことでした。生臭み発生のメカニズムを解明するため、田村主任研究員がまず参考にしたのは鉄サビの研究です。

「小学校や公園の鉄棒などには、鉄サビがついていますよね。鉄サビ自体には、においがないけれど、手で握るとにおいがつきます。これは、人間の皮脂が鉄で酸化して臭くなるからだという研究報告がありました。では、ホタテの場合はどうか。『におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC)』という装置を使い、密閉ガラス容器の中にホタテの干物とワイン(鉄を含まないモデルワインや、鉄を含むワイン)、あるいは鉄を混ぜた水などを入れて、どんなにおいの揮発成分が発生するかを調べたわけです」

ときには1日中、ガスクロマトグラフィーに向かい、においを嗅いでいたそうです。その結果、魚介とワインから発生する生臭い物質が、不快な魚臭のする成分「(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール」などであることを特定。ワインの中の「二価鉄イオン」が、魚介の「脂質」の酸化を促進し、臭い成分を瞬時に発生させるというメカニズムが明らかになってきました。

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においなのか? 味なのか?

実験で使用したノーズクリップ

ここで、ある疑問にぶつかります。それは、ここまで調べてきた「生臭み」が、果たして「におい」なのか、それとも「味」なのか、という問題です。

「官能評価は、人が実際に食べながら評価を行う実験ですが、その際、味覚と嗅覚を同時に感じてしまいます。料理とワインに関するいろいろな本を読んでも、においと味を明確に区別して書いてあるものがなかなか見つかりません。一体、生臭みはどちらに由来するものなのか。それをはっきりさせたくて、ノーズクリップ(鼻をつまむ道具)を使うことを思いつきました」

ノーズクリップは、水泳のシンクロナイズドスイミングの選手が使っているものと同じで、鼻をきつくつまむため、「におい」を遮断することができます。これを使って官能調査を実施したところ、味覚だけでは生臭みを感じないことが分かりました。つまり、「生臭み」は、鼻で感じている「におい」だったのです。

「生臭み成分」が鼻に広がるのを「油脂」が抑制する

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次なるテーマ「料理の油」に着目

ホタテの干物と鉄を含むモデルワインの組み合わせにおけるオリーブオイルが与える生臭みへの影響

魚介にオリーブオイルを加えると、生臭みの感じ方が抑えられる

「生臭み」の研究を進めるうち、新たな疑問は次々にわいてきました。自身も料理好きという田村主任研究員が次に取り組んだテーマは、料理に使われる「油脂」との関係解明です。

「ヨーロッパの文献を見ると、魚介とワインを組み合わせたときの『生臭さ』が指摘されるのは限定的な組み合わせのみでした。魚介料理とワインの組み合わせは一般的に受け入れられています。これは、オリーブオイルやバターなどの油を料理に使っているからではないかと思いあたったんですね。和食の魚介料理では、天ぷら以外、油を使う料理が少ないですから」

ホタテの干物と、鉄を含むワインの組み合わせにオリーブオイルを添加して官能評価を行ったところ、グラフのように、油脂による生臭みの抑制効果が明らかになりました。つまり、ワイン中の「鉄」と魚介の組み合わせで生臭みが発生しても、油を使った洋風料理では生臭みが抑えられることを示唆しているわけです。

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海外の専門家も注目。「ワインづくりの新しい視点になれば」

「第239回アメリカ化学会」で研究成果を発表

これら一連の研究成果は、2008年から、「日本味と匂学会」や「日本ブドウ・ワイン学会」などの大会で発表され、大きな反響を巻き起こしました。さらに、09年に研究内容の一部を発表した論文は、アメリカ化学会の学会誌やニュースリリース、イギリスの経済誌『The Economist』で紹介され、海外でも大きな話題を呼びます。

「毎朝、起きると海外から問い合わせのメールが届いているんです。マスコミや研究者だけでなく、イギリスの大手スーパーマーケットやアメリカのワインバーから、『具体的に、どのワインを仕入れたらいいか教えてほしい』『どうすればワインに含まれる鉄が測れるか教えてほしい』などの質問が寄せられたり、海外のワインメーカーから問い合わせがあったり。この反響には正直、驚いています」

2010年3月には「第239回アメリカ化学会」で発表も行い、そこで得た新たな視点や交流を生かして、さらに研究を進めたいと田村主任研究員は言います。

「私たちの研究によって、ワイン業界全体が盛り上がり、ワインがより身近なものになっていくといいなと心から思います。研究の詳細はすべてオープンにして、広く開示しているんですよ。ワインのつくり方にも、新たな波が起きてほしい。この研究では、なぜワイン中に鉄が含まれるのかという考察にも及んでいます。鉄が含まれる原因として、原料となるブドウ畑の土壌、ブドウ生育中の外部からの混入、収穫から充填までの醸造中の混入が挙げられるんですよ」

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「おいしさ」をテーマに、挑戦を続ける

これまで一般的に、魚介やワインを単独で研究されることはあっても、「魚介とワインの組み合わせ」という視点での研究は、例がありませんでした。そこに着目し、国内外に大きな話題を提供した田村主任研究員が次に目指すものは何でしょうか。

「まず、この研究をさらに進めていくこと。油だけでなく、ほかの調味料の影響についても調べてみたいですね。それから、料理とワインの『おいしい組み合わせ』についても研究したいです。おいしいと感じるとき、口の中で何が起きているのか。そのメカニズムを解明した人はまだいないので、ぜひ、この手で挑戦したいですね」

メルシャンの商品開発研究所の研究者は、研究に携わるだけでなく、商品開発を手がけたり、新商品販促セミナーに出席するなど、プロモーションにまで携わることができ、やりがいがあると田村主任研究員は言います。研究を通じて、より多くのお客様にワインに親しんでほしい。その思いで、今日も新たな実験に取り組んでいます。

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