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日本橋で、キリンブラウマイスター開発者・金子聡氏が出会ったのは、ちゃきちゃきの江戸っ子ならではの語り口が心地いい“築地魚河岸野郎”こと生田與克さん。魚河岸で名のある日本橋ということで、この界隈の思い出話から、後世に残したい心意気まで、ビール片手に話が弾みました。

金子この企画を始めるにあたって、日本橋の街をぶらっと歩いてみたんですよ。いやぁ、すごい活気ですね。会社員も、年配のご夫婦の買い物客も、いっぱい歩いている。
生田俺が子供の頃、日本橋といったら、あこがれの場所だったんですよ。日本橋三越に行くために、おふくろが新しい服を買ってくれたくらい。そして、食堂で食べるお子様ランチ!これが一番上等な日曜日の過ごし方だったね。今でも、年配の人たちにとっては上等な街なんだよね。
金子なるほど、お江戸日本橋って言うぐらいだし、別格だったんですね。だから、コレド日本橋だとか、新しいビルが建ち並んでいるのに、他の街とは違った風情がありますよね。

生田老舗があるから、違うんだよ。俺は月島生まれで魚河岸の仲買のセガレだから、三代目って呼ばれちゃうこともあるけど、呼ぶなって言ってるんだよ。ここ日本橋に来ちゃうと、十代以上続いてる老舗がいっぱいあるんだから。でね、やっぱりそこの旦那たちは粋だわ。
金子ほう、どう粋なんですかね?
生田まず、ひけらかさない。
金子なるほど。
生田で、たまに一緒に飲みにつれてってもらったりするんですが、グラスの上げ下ろしひとつとっても、かっこいいんだ、これが。落語の世界がそのままあるみたいな。名前もね、若旦那が社長になると世襲制だから変わる。それが、何代も続いてるんだ。
金子いいですね、まるで別世界。まさに伝統ある街ならではの話だなぁ。
生田人だけじゃないよ。裏の方に入ると、今でも春日八郎の「お富さん」でも有名な玄治店(げんやだな)が残ってますよ。
金子粋な黒塀ってやつですね。
生田街は今、新しくなってるけど、そこのところはしっかり残してもらいたいもんだね。今も昔も、日本の中心はここ日本橋なんだから。
金子日本橋を歩いていて、橋の欄干に麒麟が据えてあるのを見つけましてね。そして、その近くに日本橋魚河岸記念碑がありましたよ。
生田江戸時代は、日本橋の下を流れる日本橋川が、交通の要所だったんですよ。運搬のね。
金子だから、ここ日本橋に魚河岸があったんですね。

生田京橋には大根河岸、で、日本橋には海産物が江戸湾から運ばれて魚河岸。殿様に献上する魚もここであがって、お城まで運んでた。その残りを一般庶民にも売ったのがはじまりらしいよ。
金子その頃、どんな魚を食べてたんですか?
生田東京湾で捕れたもの中心で、今との違いはね、マグロなんかはね、下魚とまで呼ばれて、見向きもされなかった。今、もてはやされてる大トロや中トロなんて、脂っこいって敬遠してたらしいよ。
金子もったいない話だなぁ。でも、どうして脂っこいのがだめだったんですかね。
生田アシが早いっていうのもあるだろうけど、もともと、近くの海で捕れた魚を食ってきたのが日本人。ましてや肉や乳製品なんて食べてなかったのに、戦後、食生活が変わって、脂がのってる方が好まれるようになってきた。
金子その時代の日本橋ならではという食べ物なんてありますか?

生田おっ、それ聞かれたら、始まっちゃうよ、俺(不敵な笑い)。江戸前って、本来の意味って知ってる?
金子東京湾で捕れた魚ですかね。
生田その前があるって話でね。ウナギなんだな、これが。当時、東京湾で捕れたものともっと遠くの河川で捕れたものを差別化するために、「江戸前」って名付けたのが始まりって説があるのよ。そのウナギは脂がのっててね、それをわざわざ蒸して脂を抜いてから焼くわけ。
金子それは贅沢な食べ方だなぁ。そういえば、日本橋にはウナギ屋さんが多いですよね。
生田その後、寿司屋が使いだしたって説があるんだな。
金子ウナギ、寿司、天婦羅と言えば、江戸の食べ物って感じがしますね。
生田日本橋はね、職人の街だったわけ。だから、パパッと食べられて、栄養のあるものが喜ばれたわけ。寿司もすごいでかかった。今の上品なものとは、ちょっと違ってたみたいよ。

金子そろそろ喉も乾いてきたし、「キリンブラウマイスター」はいかがですか。
生田いやぁ嬉しいね。実は今日のためにね、少し勉強してきたんだよ。「バイター・トリンケン」、つまり飲み飽きないって意味?これ、いい言葉だなってね。
金子ビールほど、飽きずに量を飲める飲み物も少ないじゃないですか。ジュースにしてもサイダーにしても、そんなにたくさんは飲めない。その秘密がホップなんですよ。ホップの苦みが喉を刺激するわけですが、飲み終わるとその苦みが消えるんですよ。この苦さがいつまでも口に残ってるようだと、次にいけない。
生田どれどれ、飲んでみよう。
金子いい飲みっぷりですね。
生田ビールはこうでなくっちゃね。うん。なるほど鼻に抜ける。これが、ホップの香りだね。話を聞くと、よ〜くわかる。うまいや。
金子このホップがね、生で食べると、本当に苦くていつまでも残る味なんだけど、ビールにするとスッと喉で消えてくれる。まさに自然の不思議ですね。ホップはハーブの一種なんですが、ビール以外ではほとんど使われてないんじゃないかな。

生田くさやなんかも、あんな匂いだけどうまい。不思議だよね。取り合わせっていうか、自然の恵み。俺ね、日本酒好きだと思われがちなんだけど、実は魚食いながらビールなんだよね。休みの日の昼間に干物とビール。これがうまい!
金子それはおいしそうだ。私はジャガイモを皮のまま焼いたので飲んでますね。自分で畑でつくってるんで、飽きないし、自然の恵みに感謝するようになりますね。
生田食べ物も飲み物も、飽きないのが一番だと思うよ。魚もね、天然物なら飽きないんだよ。まさに、バイター・トリンケン!
金子そんなに違いますか?
生田月とスッポンですよっ!魚は自然のもの。どんなに研究したって、天然に勝るものはできねぇんだよね。なのに、最近じゃ旬とか季節なんて考えない人がいる。
金子ビールも工場ではつくりますが、原材料は農作物でやはり自然のものだから、その時の状態に左右されるんですよ。そこにいろいろ工夫を加えるわけです。
生田魚もビールも同じ自然の産物なんだね。それを楽しめたらいいね。
生田金子さんって、この「キリンブラウマイスター」をつくった時って、どんなこと考えてつくり出したんですか。

金子「売れるビールというよりは、つくりたいビールをつくるように」と言われました。今でもよく覚えているんですが、ドイツで女の人がビールを飲んで、飲んだ瞬間はホップを感じて苦い顔をしてるのに、飲み終わると爽やかな笑顔になっている、という4コマ漫画があったんです。そんなビールをつくりたいって、それだけを目指して頑張ったんです。
生田これだよ、これ! 金子さんにとってこの「キリンブラウマイスター」は、当たり前のことをしてつくっただけなんだね。飲みたいビールをつくる。志のビール! 俺だってそうさ、魚もね、今当たり前に捕れる魚を当たり前に売る。それを仕事にしてるだけ。
金子夏には夏の魚、秋には秋の魚ですよね。
生田そんな当たり前のことを「こだわってますね」なんて言われると、ちゃんちゃらおかしい!普通のことをしてるだけ。
金子でも、そんな当たり前の姿勢が今、大切ですね。
生田そうだよ。人から言われたんじゃなくって、自分で「うまい」って感じる感性が必要だからね。大事にしていきたいね。
金子ところで、うまいと言えば、先ほど干物でビールと仰ってましたが…。

生田今ね、干物を自分でつくるのに凝ってるんですよ。マンションのベランダで干すの。金子さんもつくらない?
金子できるかな。
生田教えますよ。自分でつくった干物を、自分でつくったビールで飲むなんて至福ですよ。失敗したって、それはそれで楽しいよ!
金子いいですね。ぜひやってみます!

東京・月島生まれ。築地マグロ仲卸「鈴与」の3代目として築地市場で水産物を扱うかたわら、魚食の普及に努める講演会やテレビなどに多数出演。魚河岸の伝統を引き継ぐ“魚っ喰い文化の語り部”として精力的な活動を続ける。江戸っ子ならではのその語り口は、魚など自然の恵みへの尊敬と、日本食への愛に満ちており、人気を集めている。著書に「日本一うまい魚の食べ方」(中経出版)。ホームページは「築地の魚河岸野郎」。 http://www.uogashiyarou.co.jp/